まず国内の日本宗教美術史、修験道建築史の専門家との意見交換を行ない、比較宗教美術史を展開させる上で有効なトピックの選定を進めた。5月には研究代表者を含む4名で熊野の新宮市において、教育委員会および環境問題研究会の協力を得て、研究集会を開催し、有数の聖地に居住する人々からも意見を募る機会を得、聖地や聖なるモノをめぐって、なお探求するに足る肥沃な領野が残されていることが確認された。また夏以降、海外研究者とのネットワーク形成に重点的に取り組み、7月にジュネーブ大学のダリオ・ガンボーニ教授と意見交換する機会を得、8月にはニューヨーク大学アブダビ校准教授のミア・モチヅキ博士と東京で会合を持つとともに、国内博物館等の展示状況を見つつ、比較の諸方法について議論した。また9月に、中世において東西キリスト教世界の結節点のような役割を果たしたプラハを訪れた際には国立美術館のオルガ・コトコヴァ博士と同様の意見交換を行ない、今後の研究交流の可能性を探りえた。1月にはフィレンツェにおいて、KHI所長ゲアハルト・ヴォルフ教授およびフリーブル大学ミケーレ・バッチ教授とも、比較の手法や視点について議論する機会を得た。さらに3月には、リンブルクやマールブルク等において、教会宝物を含む西欧中近世の諸作例をハイデルベルク大学のダグマール・アイヒベルガー教授と共に実見するとともに議論し、比較宗教美術史研究に資するタームの策定について多くの示唆を得た。加えて、比較宗教学における比較研究の諸相について学び、美術作品を比較する上での視点形成に有用な情報を収集した。先駆者としての南方熊楠の重要性が浮かび上がってきた。なお、連携研究者二名とは、三度にわたり研究会を開き、有効な比較のためのタームについて、それぞれの分野からの具体的事例を示しつつ議論を交わし、比較が有効に働くと思われるトピックの選別を進めた。
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