研究課題/領域番号 |
16K13174
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
今泉 容子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (40151667)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 映画 / 表象史 / 認知症 / 患者 / 介護者 / 介護施設 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
本格的な「認知症映画」は、1973年に日本で制作された『恍惚の人』が、世界初の例である。しかし、日本映画が辿る認知症の変遷を本格的に研究した例は、まだ存在しない。 本研究の第一の目的は、認知症患者の介護をめぐる家族像・社会像の変遷に注目しながら、「認知症介護映像表象史」を構築することである。第二の目的は、2000年代に興隆した「外国」の認知症映画に目を向け、日本と外国の認知症介護映像表象史を比較考察することである。 初年度にあたる平成28年度は、第一の目的を達成すべく、認知症映画の本格的な第1号作品である『恍惚の人』(1973年、豊田四郎監督)から今日までの日本映画を対象として、「認知症患者と介護者の人物造形」と「彼らを取り巻く社会環境」を検証していった。そして認知症介護の「映像表象史」と呼べるような小史を構築する努力をした。その映像表象史の要点をまとめると、以下のようになる。 「認知症患者」と「介護者」が築きあげる人間関係は、1973年から今日までの映画において、大きく変化している。初期の1970~80年代の映画では、第一号の『恍惚の人』以来、患者はいつも高齢の「男」であり、彼を介護する者はきまって女(それも義理の娘)であった。しかし1980年代後半になると、高齢の「女」の患者が出現しはじめ、彼女を介護するのは夫(男)になる。とつぜん男・女の逆転が起こったのである。2000年代初めまでその傾向は続くが、2000年代には新たな患者/介護者の関係が広がりを見せ、介護者として義理の娘が多くなり、患者と介護者のあいだに「女どうしのネットワーク」が確立されていく。ところが2010年代に入ると、介護者像はさらに多様化し、息子(男)や介護施設のスタッフが加わるため、今日の認知症映画はじつに豊饒な多面性を見せている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画どおりの進捗状況である。平成28年度の計画は、日本映画における認知症介護の描写に関して、以下の2点を解明することであった。(1)認知症患者と介護者の人間関係(家族関係)はどのようになっているか、(2)患者と介護者を取り巻く社会環境(たとえば介護福祉施設)はどのように設定されているか。それらの計画が達成できたことから、研究はおおむね順調に進展していると判断しうる。
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今後の研究の推進方策 |
2年計画の2年度目(最終年度)は、予定どおり、外国語映画を視野に入れ、日本映画における認知症介護の表象と外国映画におけるそれとの比較を行う。すなわち、平成28年度に実施した日本映画における認知症介護をめぐる表象の解析を、外国映画にも応用し、「認知症介護」というテーマを軸にした日本映画と外国映画の「比較映像論」を展開すること。それが、今後の研究の推進方策である。 平成29年度は最終年度であるため、国際会議における研究成果発表も実施する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度には研究成果を公表するための外国旅費や、入手困難であった研究資料の購入など、支出額が大きくなることが明らかになってきたため、平成28年度の予算から30数万円を確保した。
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次年度使用額の使用計画 |
確保した次年度使用額によって、2つの計画を実行するつもりである。ひとつは、研究成果を発表するための外国旅費として使用すること。もうひとつは、研究資料(具体的にはDVD映画資料)の物品購入費として使用すること。
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