研究課題/領域番号 |
16K13181
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
上原 雄史 富山大学, 芸術文化学部, 教授 (30761069)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 結露 / 未来建築 / マイクロシティ / コモンプールリソース / 放射冷却 / アルミの家 / 庭 / 砂漠居住 |
研究実績の概要 |
H28年度の計画は3段階各3部である。第一段階は同年4月のコンセプト段階であり、パフォーマンス設定、サイトコンディションデータの収集である。居住・食物生産のための基準を定め、建築のサステイナブルパフォーマンスを高度化することにより、生活に必要なリソースの50%を導く技術目標を定めた。 次段階は、同年6月から7月の極限環境における生存の神話作用として建築形態を設定する段階で、極限気候災害例を収集し生存装置の形態について推論し、水滴を外形のテーマと仮定した。高山での雪崩事故は、発生後ほぼ対応不可能な速度と時間経過で起きることを確認し、また今日の気象学とテクノロジーの発展が富士観測所の無人化を導いた事を鑑み、本研究の高い需要が見出される地域を判定した。派生して、大学の施設を利用し現実にアルミ小空間構造物を茶室に改修製作する機会に恵まれ軽合金建築の居住性を確認することができた。回収後の茶室に貴人を招き茶会を催し、その空間体験レベルの高い評価を得ることができた。 続いて同年9月から11月まで構法と空間の意味作用の関係、マイクロシティの幾何学的特性、テクノロジーリストをプログラミングした。建物に付着する有機物の洗浄可能性と恒久性について考慮し、外壁デザインに新しく焦点をあてることで意匠から建て方に及ぶシステム設計を行った。外壁の自由な表面積操作を可能にする外壁幾何形態を設定し、詳細意匠に調節機構と効率良い収集機構の樹立を目的に葉脈状の構法形式を設計した。H29年12月から1月期は設計を更に勧め、建築平面には基本正方形を採用しながら、扇型平面やトーラス状平面も可能になるように外壁の曲率を比較的簡単に設定できる建設ユニットを考案した。以降、放射冷却による結露収集と冷房設備のコンセプトを設定しこれらをCADによる3次元デザインとして設計した。以上でH28年度の研究計画を達成したと評価している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H28年度の段階で、計画時に現在予定していた基本設計を収めたので良好だと考えている。近藤純正の研究に基づき、建築タイポロジーとの関係を図式化する作業を進め機能を推論した。 同期にVR機器を導入し、3次元CADでデザインする建築空間を知覚体験可能な環境を設定できた。さらに、富山大学芸術文化学部が所有のアルミ製の小構造物を茶室に改修して、軽金属造の小空間の居住性を試験した。一般に、未来の高密度都市住居は無機質な空間にVR技術で自然を投影すると言うイメージだが、ここに純和風を融合し和の未来空間モードを体験確認する試みで、新規にジュラルミン梁で屋根を架構し室内壁面4面に自然・都市・庭などのイメージを投影できる閉じた空間を作った。貴賓を迎え茶会を催した結果、好評をえた。 同時に新規の進展があった。昨年度第3段階の研究で、既存の住区例においては自主管理可能な緑地がある都市形式が住区の長期自律と成功を導く、という事実を発見した。本研究の未来建築をコミュニティ存在のCPR(コモンプールリソース)として位置付ける仮説をたて、この研究をノーベル賞学者エリノア・オストルムのコモンズ経済論を参照しながら進めている。プリツカー賞受賞建築家妹島和世とベネッセ財団の理解を得て、ランドスケープアーキテクト明るい部屋とともに瀬戸内海の過疎島犬島で庭を製作しランドスケープのCPR価値を確認する試験を2016年に開始した。定期的に帰島し島民のコミュニティ形成への影響を確認したい。極限地域に建つこのマイクロシティ形式が維持管理組織の運営形式と適合すれば、そこでのコミュニティの成長を強化でき、建築形態が生存可能性を意味する神話作用を強化し、技術革新を加速すると考える。この部分は新領域なので、本研究においては現行案の矛盾を判別する基準の策定に止めるが、これからの研究発展における重要な鍵を握る課題であると確信している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度6月にドバイのマスダール計画とロンドンで近年類似した研究を繰り広げている建築設計者を訪問し知見を広げ、汎用化の現実性を高めるステークホルダーネットワークの作成を始める。近年、都市化は世界のいたるところで進んでいることを考慮し、本研究がよりよく当てはまる敷地・経済・文化を持った地域を更に丁寧に探してゆく。敷地選定の確立後に建築の規模や仕様を決めてゆくプログラミングを行い、基本ユニットから比較的大きな村落規模へ拡張・収縮してゆくためののフェージングに必要な設計条件を設定する。 近藤純正の研究に基づき本研究で推論して得られた建築形態を、これから何度も吟味しながら設計をより良く効果的なものに直してゆく。規模がおおきくなるに従い、システムが複雑化するのが常だが、明快な全体像を構成するために、基本ユニットを並置する方法、積層する方法など、簡易管理可能な建物の集合・都市化システムを選定する。20世紀大都市はグリッド幾何学を用いて大都市を形成した。今、建築の配置において場所性をゆるく定めるものから厳密に定めるものまで段階を設定し、未来都市の空間体験を操作可能にするシステムを考える。本研究は比較的小規模であることに留意し、かつ都市的な雰囲気を実現し棟間に緑地を用いかつ自動車の存在が問題にならない前例を選び設計の下敷きにする。 7月には熱環境シミュレーションを行いたい。熱環境装置を設計に組み込み、外壁の開閉と内部構造部材のシステムを呼応させ、目的とする環境に呼応した建築の美を具体化する。結露露点計算ミュレーションソフトは入手したが、現在、放射冷却を高精度に分析する建築環境シミュレーションソフトがないようなので調査を続ける。夏には設計を終えプレゼンテーションの制作に移行したい。11月には論文報告書及びプレゼンテーションを収め年末から年度末に外部プレゼンテーションの機会を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
各種高速演算に用いる予定であった高性能コンピューターMacProの新型が、応募当時予期した以上に遅れた。PCへの乗り換えは以降の各種研究機材の調達に大きな影響を及ぼすことになるため、昨年度結局発注を見送ったことが原因で次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、PCを中心に機材収集を進め、高額の熱環境演算ソフトを導入する準備をすすめている。
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