研究課題/領域番号 |
16K13181
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
上原 雄史 富山大学, 芸術文化学部, 教授 (30761069)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Tachi Miura polyhedron / 放射冷却 / 柔らかい光 |
研究実績の概要 |
当該年度における成果は、本研究が導く建築形態が結露水の適切な収集を可能にするのみならず自然光の高度利用においても高い効果があることを確認できたこと、そしてこれらの断片をひとつの建築デザイン体系として統合することができたことだ。これにより、変貌する環境への対応を可能にする新しいタイプの建築ファサードシステムを有した小建築を設計できたと考えている。これをVRで体験可能にしたので、学生などを対象に建物の使用法に関するアンケートが可能になり、建物の奥深くに届く自然光を利用して日常生活を送る逆転発想が具体化できたと考えている。 本研究が追求する建築外皮の形態的特性は、日本人研究者がNASAで人工衛星の太陽電池を宇宙で展開するため折り紙に着想した三浦二重波形可展面(Miura Developable Double Corrugation Surface) と称される表面幾何が満たすことを見出した。これにより建築と宇宙技術や最先端の幾何学の美を融合できたと考えている。この建築形態は、自然光の照度のみを効率よく内部に取り込むので、赤道直下においても北欧のような柔らかい光に包まれた住環境を具体化できると考えている。これは、より広い意味でのサステイナブルな住環境の実現と同義だと考えている。この自然光の制御に関する発見は付随事項だが、より環境を能動的に使う建築を導くと判断し大学紀要論文として発表し、続編を国際学会PLEAに投稿し採択されたので年末に発表する。建築デザインは画廊・展覧会などで展示し、高い成果が期待できるとする反応を得た。査読付き論文は論文発表ウェブサイトResearch Gateを通じて世界に公表しており着実に研究結果の普及に結びつけている。 地場のアルミ産業協会現場との技術開発の連携準備も積極的に進め、大学協定を結んでいる西欧の大学を通して国際的な評価を模索する努力を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、建築ディティールの設計・シミュレーションソフトの選択、そしてシミュレーションを実行している段階だ。研究を一年間延長したのち、最新型のワークステーションと恒常的熱環境シミュレーションソフトを導入し、ファサードの形態原理を立体展開でスタディし、そのパフォーマンスを具体的に検証する過程にある。 現在シミュレーションソフトに関して調査を進め、目的とする熱環境の疑似カラー表現のためには当初予定したソフトでは困難な部分があることを確認した。熱環境の恒常的特性においてはシミュレーション結果の擬似カラーによる表象が可能であるが、過渡状況や放射冷却の分析には流体力学や輻射熱計算などより広範囲かつ高度なシミュレーションソフトが必要であることがわかった。また、3次元ディティールの解析において自由な形状のシミュレーションにまだ開発が必要であることを理解した。この分野において現在国際的に開発が進むシミュレーションソフトの中で市販されているもので、これを部分的に可能にするものを見出した。高価なので学長裁量経費などに応募し年度内に購入する努力を進めている。 設計においては基本モデルを設定し、現実に即してこれを多様に展開する論理的可能性を満たす構法を設計している。具体的には、ディティール・素材・空間構成・建築構法の範疇を適宜当てはめ構造化する。条件の異なる恒常的熱環境シミュレーションを用いてスタディを繰り返し、結果を収集することで過渡状況をある程度予測出来るような努力を進めている。結果を立体的に再構成することで三次元ファイナイトアナリシスに近い分析結果の表象を行なっている。こうすることで本研究の遂行が既知の知識ですでに可能であり、分析技術のさらなる発展がより豊かな成果をもたらすことが自明であると結論付ける努力をしている。年末までに研究目的を達成し来年度の国内外の学会発表にむけ研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を推し進めると、研究推進方策は気候帯に従って分岐すると推論する。本研究の枠組みに従い極限気候における生存領域の拡大のため研究を進める方向、あるいは、本研究の成果を温帯地域における住環境の改善に当てる方策などである。 極限気候においては2つの理由で大規模な建築が主題となるだろうと考えている。本研究の成果を用いれば建物の奥深くに自然光が届く建築が可能になるため、建物容積に比し小さなファサード表面積が可能になり、単位床面積あたりの熱損失が小さくなるため熱効率が上がる。また、現在砂漠沿岸部で展開している都市開発を鑑みると生存シェルター的小建築よりも大規模建築の実現を望む法人が多いと考えられるからだ。内部には都市的な環境を設定できるだろう。第二の場合、本研究は温帯地域に住む人類全体の生活環境の向上に貢献できると考えている。現代の建築環境技術は北ヨーロッパの寒冷気候における快適な住環境の確立を目的としており、建築内外の環境を高気密断熱する原則に従っている。温帯気候においては、伝統的な住居が四季折々の気候変化を活用し内外の空間の連続性の上に豊かな住空間を築き上げた、その快適性をさらに強化するような独自の建築が望まれている。いづれの場合もバックミンスターフラーなどの先行研究を継承し、地球規模の環境活用を視野とした装置として建築と都市を位置付けることができると考える。 本研究の完成は、建築が気象条件を今以上に活用できると証明することで、建築デザインが熱環境をメディアとして新しい芸術的な建築空間の創造方法を獲得できる、その基盤になると考える。現在、元京都大学建築教授と連携して講演会を企画しており、高い波及効果を得る成果の生成に努めているほか、海外の関連研究者にも積極的に働きかけていく所存である。当該分野の国際学会に積極的に投稿し研究成果を周知し、そしてネットワークを広げていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
PLEA香港をはじめとした国際学会などに出席し、さらに必要なソフトなどを補充購入するため。
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