本研究「発酵音響による芸術表現の可能性」は、発酵という生命活動に着目した研究実践である。焼酎の生産過程におけるアルコール発酵において、その代謝エネルギーの変換によって排出される炭酸ガスによる「発酵音響」が芸術的な表現を生み出す可能性を模索した。発酵音響に収録にあたっては、衛生面や強度の酸性に対処する必要となった。そのために、発酵の現場となる醪(もろみ)のなかに沈下させる特殊に養生加工した水中マイクを考案し、醪の内部における発酵の状態を音響によって明らかにした。さらに、この発酵音響に内包された音響特性を解明するとともに、発酵と神話性を結びつくような美学的な価値のよる芸術表現を試みた。 初年度では、集音システムの考案と収録方法の確立を中心に実践した。まず、集音システムにおいては、焼酎の発酵時の醪に沈下するためのあらたな水中マイ クの設計/製作に取り込んだ。そして、沖縄において、神谷酒造所、瑞泉酒造、新里酒造の3つの泡盛の酒造所にて発酵音の収録作業を行った。2年度は、沖縄での発酵音の収録における問題点を改善するとともに、芸術表現の実践へのさまざまな準備段階となった。最終年となる3年度は、大阪の「+1 art」ギャラリーの協力により、「発酵をよむ」という展覧会を実施した。この展覧会は、映像やインスタレーションを担当した二人のアーティストとのコラボレーションとなったが、「発酵」をさまざまな角度から表現の可能性を問いかける機会となった。この展覧会のなかで「甕の音なひ」というサウンド・インスタレーションを実践したが、実際に「どぶろく」の発酵過程を音響化する表現を試みた。さらに、最終年では、この3年間の研究実践における発酵音響のアーカイブ化した研究実践の記録をまとめた「発酵の響き~甕の音なひ」という記録集を刊行し、公開した。
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