研究課題/領域番号 |
16K13186
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中川 眞 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (40135637)
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研究分担者 |
山田 創平 京都精華大学, 人文学部, 准教授 (30554315)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | LGBT / 人権擁護運動 / 市民運動 / アクティヴィスト / フリースピーチ / 社会包摂型アート |
研究実績の概要 |
現在、欧米でも日本でもLGBTに対する差別、ヘイトスピーチやヘイトクライムが頻発している。アメリカで起こったヘイトクライム事件、いわゆるマシューシェパード事件(1998年)などはよく知られているが、日本にもLGBTに対する深刻な差別やヘイトスピーチ、ヘイトクライムは存在する。 欧米ではLGBTの人権擁護運動や差別に対する異議申し立ては常にアーティストとの協働で進んできた。一方、日本ではそのような事例は少ない。この理由はどこにあるのだろうか。本補助金における研究事業として2016年9月にニューヨークを訪れた。現地で1980年代から現在に至るまでHIV/AIDS、LGBTの権利運動を展開したACT UPのミーティングを取材した。またACT UPの活動を記録した映画「怒りを力に-アクトアップの歴史」を制作したサラ・シュールマン(ニューヨーク市立大学教授)と面会した他、アジアンカタリストのディレクターであるカリン・カプラン、ニューヨーク市立大学LGBTQ研究センターディレクターのケヴィン・ナダルを取材した。これらの調査の結果、日米の違いとして以下の要素が確認された。また、これまでの研究成果を2016年2月にジョグジャカルタで開催された第15回都市研究フォーラムにて、代表者、分担者、協力者の3名が発表した。 アーティストと活動家の関係が、お互いにメリットのある、キャリアアップにつながる関係になっていること。アクティビズムに参加することで、アーティストは成熟したアーティストへと成長し、新たなテーマを獲得すること。活動家はアーティストが提供する美しいビジュアルや新しい表現を通して、活動に対する新たな価値観や見方を獲得すること。アメリカのフリースピーチ、民主制の原則の大きさ。これらの過程を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本科研においては計画通りに進んだ部分と、やや遅れている部分がある。計画通りの部分は以下のとおりである。研究計画ではサラ・シュールマン(ニューヨーク市立大学教授)氏インタビュー、カリン・カプラン(NGOアジアンカタリスト代表)氏インタビュー、ケヴィン・ナダル(ニューヨーク市立大学LGBTQ研究センター「CLAGS」代表)氏インタビュー、NGOアクトアップ取材、MOMA(ニューヨーク近代美術館)、レスリーローマン美術館取材、ブロードウェイ・ミュージカル取材などを予定していたが、ほぼすべてのスケジュールをこなし、予定していた調査を終えることができた。 研究成果は、江之子島文化芸術創造センター(enoco)において、市民向け公開研究会「LGBTの人権擁護運動におけるアートとアクティビズムの関係について―アメリカと日本の比較研究」を実施することで広く市民と共有した。また大阪市立大学とガジャマダ大学(インドネシア)の共同研究事業15th Urban Research Plaza Forum 2017において研究成果を発表した。また大阪市立大学都市研究プラザ10周年記念国際シンポジウム「復元力(レジリエンス)のある都市をめざして」において研究成果を発表した。これまでに当研究プロジェクトを通して多くの他の研究者や市民セクターとの間に協働関係、ネットワークが発生している。 年度当初に上記の計画をたてたが、研究を進めるうち、タイにおけるLGBTとアートとの関係についての現地調査を行うこととして予算使用方法を再検討した。当初計画を若干コンパクトにして、アジアでの現地調査を加え研究に幅をもたせる計画へと年度途中に修正した。ところが、2016年10月にプミポン国王が死去したため、あらゆる文化活動が停止して調査を始めることができなかった。これがトータルとしてやや進度が遅れていると評価する所以である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、まず日本社会におけるLGBT の社会包摂とアートとの関係を現時点においてできる限り網羅的にまとめる必要がある。そのためのフィールドワークや文献調査を行い、国内の有識者、NGOスタッフ、行政官などへの取材を行う。また近年LGBT の人権問題に積極的に取り組んでいる台湾の台北市に赴き、意見交換・情報収集を行う。現地のNGOや大学を取材し、日台の比較研究として、その成果をまとめる。さらに2016年度に実施できなかったタイにおける調査を実施する。 公開研究会も継続的に実施する。LGBT の社会包摂とアートとの関係について実務者や当事者を交え議論することで、当該課題への向き合い方や解決方法について考察する。以上の諸活動のアーカイブ化も同時進行で行い、書籍・論文にまとめる。年度末にフォーラム「アートとマイノリティの社会運動(名称は仮)」を開催し、成果を市民に還元する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度当初の計画にプラスして、タイにおけるLGBTとアートとの関係についての現地調査を行うこととし、予算使用方法を再調整して準備を行った。当初の計画を若干コンパクトにした上で、アジアでの現地調査を新たに加え、本研究に幅と挑戦性をさらに加えようという意図をもったのである。タイは周知のとおり、ジェンダー問題に関してはオープンな国民性をもっており、アート表現においてもユニークである。ところが、2016年10月にプミポン国王が死去したため、あらゆる文化活動が停止してしまい、調査の見通しがたたなくなった。これは全く予想していなかった事態であり、我々の努力で解決できない問題であった。やむなくタイでの調査を中止し、下記のごとく、来年度に同調査を行うこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に実施できなかったタイでの「LGBTとアート」調査を、社会包摂型アートの文脈で実施する予定である。また、2018年3月に開催される第16回都市文化研究フォーラムにおいて、その成果を代表者ならびに分担者が発表することとし、タイの研究者、アクティヴィストたちとの交流や意見・情報交換を深める予定である。
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