研究課題/領域番号 |
16K13190
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
エグリントン アンドリュー 甲南女子大学, 文学部, 講師 (30707948)
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研究分担者 |
エグリントン みか 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (50632410)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本 / 核 / 原爆 / 不可視 / トラウマ / カタストロフ / 舞台芸術 / 表象 |
研究実績の概要 |
英字新聞"The Japan Times"などに掲載された文章6本、企画運営を行った講座・会議・シンポジウム4本を合わせた計10本を計上した。 舞台芸術を記録し共有する手段として、英日のメディアに劇評を寄稿しているが、中でもドイツ在住の田中奈緒子の三部作、日本のダンスカンパニー・ニブロールとアジアのアーティストが組んだ『源氏物語』の飜案は、間接的ながらも不可視の核と繋がる問題系を扱っている。 企画運営を行なった国際公開講座の筆頭に挙げた「芸術と社会の接点:「核」を巡る二つの映画を中心に)」では、ベトナムの首都ハノイを拠点に活動する映像作家グエン・チン・ティー氏を神戸市外国語大学に招聘し、3.11直後の東京で撮られた「Jo Ha Kyu」(2012年)、少数民族チャム族が住むNinh Thuanにベトナム政府が同国発の原子力発電所を建設しようとする計画を事実と虚構を織り交ぜながら描写した「Letters from Panduranga)」(2015年)という核の脅威を日本とベトナムの文脈から政治的かつ誌的に捉えた二作品を彼女の講義と共に上演した。その後、アジア女性舞台芸術会議の一環として、1995年に震災による多大な打撃を受けた神戸市長田区をアジア五カ国から招聘した演劇人と視察し、地元のdance boxと早稲田スコットホールにて会議を持った。またアジア四カ国で行なった現地調査の結果を、東京の森下会議での報告会、報告書、演劇雑誌『シアターガイド』で発表した。 芸術と社会の接点を探る研究は、国際演劇祭KYOTO EXPERIMENTにおけるシンポジウム「ナショナルアイデンティティと文化イベント」の企画にも繋がった。田中奈緒子、 キミ・マエダ、ロベルタ・リマという女性アーティスト三人を招聘し、「"政治”や“歴史”の前で個人の言葉をいかに響かせていけるのか」を討議した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の研究業績に加えて、研究の成果の一部を示したアーカイブ・ウェッブサイトhttp://www.andreweglinton.com/after311/ に示したように、「From Hiroshima to Fukushima: Japanese Performing Arts After 3.11」の研究は、当初の計画通り、順調に進んでいる。 地震と津波という目に見える天災と、放射能汚染という目に見えない人災が舞台に表象された/されなかったのかを検証し、表象も修復も不可能なカタストロフとトラウマに向き合う芸術の社会的役割を検証するプロジェクトは、本質的に可視の表象物である舞台芸術が、不可視の核をいかに投影、歪曲、変容、昇華、隠蔽してきたのかを考察するものである。そこには、目に見える/見えない、表象可能/不可能なトラウマとカタストロフという二項対立と矛盾が自ずと存在し、舞台表現はしばし直喩ではなく、隠喩として間説的に感知される。故に、研究対象が、当初予定を組んでいた時より、核をメタファーや単なる言及として織り込んだ間接的に描いたもの、あるいは核として限定せず、特にアジア圏の戦争・闘争を含むカタストロフとトラウマという社会的、個人的な闇を、女性の視点から扱ったものが圧倒的に多くなっている。 結果として、アジア女性舞台芸術会議やKyotoExperimentと連動した国際会議・シンポジウムの企画が可能になったわけだが、これらは当初の計画では最終年に当たる3年目に予定されていたものであったので、計画していた方向とは異なるものの、それ以上に進展しているという評価を選んだ。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる2018年度も、二度と同じ舞台はない一回性を特色とする時間芸術であり、常に変化し続ける演劇動向に伴走しなから研究活動を行い、 "The Japan Times"など日英の二ヶ国語で研究成果を発表し、舞台芸術作品やそれを巡る会議、シンポジウム、記録集を企画していく。
7月にセルビアの首都ベオグラードにて行われる国際演劇学会IFTR (International Federation of Theatre Research)にて、エグリントンみかが日本とドイツを往還し的た田中奈緒子氏の「移動」についての英語論文'On the "unknowable consicousness" of migration in Naoko Tanaka's "Uninternalized (light)"'を、アンドリュー・エグリントンが村川拓也氏の記録する身体についての英語論文をDwelling” on the Documentary Body in Takuya Murakawa’s “Independent Living発表する予定である。 発表後、論文として言説化することと並行して、三年間の研究をまとめた言説を書籍化する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
学務が多忙を極めたがために、国内外の研究出張を当初予定していた通りに組むことができなかった。当初より過去2年より予算が低かった最終年度に当たる来年度に繰越し、海外における国際学会におけろ論文発表などに活用することによって、計画されていた以上に有意義な研究費か活用にする所存である。
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