研究課題/領域番号 |
16K13190
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研究機関 | 甲南女子大学 |
研究代表者 |
エグリントン アンドリュー 甲南女子大学, 文学部, 講師 (30707948)
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研究分担者 |
エグリントン みか 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (50632410)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本 / 演劇 / トラウマ / カタストロフ / 表象 / 舞台芸術 / 3.11 / 核 |
研究実績の概要 |
舞台芸術の現在進行形に伴奏し、記録し、共有する手段として、英日のメディアに劇評を寄稿しているが、今年は女性の視点から社会と演劇について記述することが多かった。女性・移民・芸術という「マイノリティ」の声を集めるプロジェクトを、アジア女性舞台芸術(亜女会)の羊屋白玉がニューヨーク(NY)に住むベトナム人女性に焦点を当てて行い、その報告パフォーマンスである'"Rest in Peace, New York.” A Public Forum on Theater, Women and Immigration'を明治40年からから米国において日本文化を紹介してきたTheJapan Society(JS)にて行い、アシスタント兼リーディング・パフォーマーとして、研究分担者のエグリントンみかも参加した。 滞在中、JSのダイレクターの塩谷陽子、ブルックリンを拠点に活躍する劇作家・翻訳家・演出家のアヤ・オガワにインタビューをとり、The Japan Timesに寄稿した。7月には、ベトナムの古都フエにて亜女会国際会議を持ち、矢内原美邦作の『悲劇のヒロイン』の英訳を行うと共に、昨年度、外大と下町芸術祭に招聘したアジア5カ国から集められた演劇実践者の声を記録した冊子を日英バイリンガルで執筆した。また、女性アーティストに焦点を当てた国際演劇祭Kyoto Experimentのリレーエッセイとして「女×アジア×舞台芸術」も寄稿した。 ベオグラードで行われた国際演劇学会IFTRにて、“On migrafion and consciousness of in Naoko Tanaka’s Uninternalized light”を発表した後、バルカン半島の演劇をリサーチした結果である「バルカン半島の演劇を知る:ベオグラードの街角で見る旧ユーゴスラヴィアの悲劇」を『シアターガイド』に寄稿した。加えて、ジゼル・ヴィエンヌ構成・演出、デニス・クーパー作『腹話術師たち、口角泡を飛ばす』の翻訳と解説文を『舞台芸術』にて出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の研究業績に加えて、研究の成果の一部を示したアーカイブ・ウェッブサイトhttp://www.andreweglinton.com/after311/ にに示したように、「From Hiroshima to Fukushima: Japanese Performing Arts After 3.11」の研究は、当初の計画通り、おおむね順調に進んでいる。 地震と津波という目に見える天災と、放射能汚染という目に見えない人災が舞台に表象された/されなかったのかを検証し、表象も修復も不可能なカタストロフとトラウマに向き合う芸術の社会的役割を検証するプロジェクトは、本質的に可視の表象物である舞台芸術が、不可視の核をいかに投影、歪曲、変容、昇華、隠蔽してきたのかを考察するものである。そこには、目に見える/見えない、表象可能/不可能なトラウマとカタストロフという二項対立と矛盾が自ずと存在し、舞台表現はしばし直喩ではなく、隠喩として間説的に感知される。故に、研究対象が、当初予定を組んでいた時より、核をメタファーや単なる言及として織り込んだ間接的に描いたもの、あるいは核として限定せず、特にアジア圏の戦争・闘争を含むカタストロフとトラウマという社会的、個人的な闇を、女性の視点から扱ったものが圧倒的に多くなっている。 結果として、アジア女性舞台芸術会議やKyotoExperimentと連動した国際会議・シンポジウムの企画が可能になったわけだが、これらは当初の計画では最終年に当たる3年目に予定されていたものであったので、計画していた方向とは異なるものの、それ以上に進展しているとも言える。一方、全体的なプロジェクトが女性の視点から見た社会と演劇の関係性に焦点を変えているため、書籍プロジェクトにもテーマの方向転換があり、遅れがあるために「概ね順調に進展している」との評価にした。
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今後の研究の推進方策 |
4月からアメリカ、キューバ、ドイツにてリサーチを行い、長年ニューヨークを拠点に作品を発表してきたYoshiko Chuma、Eiko Otake、ドイツ語圏で活躍するSachiko Hara氏など、日本をさって海外で活躍してきたアーティストにインタビューをとり、The Japan Timesの日曜版特集である"Why did you leave Japan?"に寄稿する。インタビューをさらに敷衍させた論考をを書籍化する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本質的に可視の現象を扱う舞台芸術が、不可視の核をいかに表象ないし変容・隠蔽してきたのかを考察した結果、核を直喩ではなく、隠喩として描いた手法が主流として上がってきた。その為、問題を核のみに限定せず、戦争・闘争を含むカタストロフとトラウマに傾いた国際会議などを実現してきた。研究目的に修正を加えつつ、核の隠喩が語る「悲劇」の研究の成果をより多角的に考察し、言説化するために、延長申請を行ったため。
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