当研究課題は,軍記文学が近代の地域において受容され,人々の「記憶」にどう働きかけ,地域振興に如何に活用されたかという問題を設定し,瀬戸内(屋島)・北陸(金沢,富山)・房総を対象に,「郷土史」編纂事業等に着目したものである。 割拠する武士社会における地域の認識から,近代の天皇が現前化すること(巡幸行事),近代経済活動において地域が相対化される行事(共進会開催等)により,「中央」との関係を再構築し,「地域」相互に共有可能なコードとして,軍記の「記憶」が引き出されていった実態を明らかにした。同時にこれらの行事を含めた「記憶」は,近代の「地域」住民にとってのアイデンティティ形成にも影響を与えている。
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