研究課題/領域番号 |
16K13196
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
塩野 加織 早稲田大学, 文学学術院, 助教 (80647280)
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研究分担者 |
尾崎 名津子 弘前大学, 人文社会科学部, 講師 (10770125)
十重田 裕一 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40237053)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 検閲 / メディア / 文学 / 出版 / 近代 / 岩波書店 |
研究実績の概要 |
研究初年度は以下の研究活動を行った。 (1)『岩波茂雄文集』全3巻の刊行 岩波書店の全面的な協力を得て、岩波茂雄名義で書かれた文章をタイプした原稿や、内容見本、草稿、書簡類の貸与を受け、尾崎を中心に以下の手順でそれらをデータ化した。①初出がある場合はその発表媒体を確保。②本文校訂。③年代不詳資料の年代特定。④各資料に関する注と解題の執筆。これらは『岩波茂雄文集』(全3巻、2017年1~3月)として、岩波書店より刊行された。なお、十重田は第3巻の解説を執筆した。同文集には初めて公表される文章も多く含まれ、その内容は高い資料価値を具えている。また、岩波茂雄と蓑田胸喜との交渉や、瀧川事件に対する岩波の反応を整理するなど、戦前期の岩波書店と言論統制との関係性を精緻に可視化した。この点で、本課題のテーマである検閲と文学との関わりを検証するに相応しい成果となった。書評においても各資料の内容のみならず「近代出版文化史を知る」ことができると評されている(張競「今週の本棚」(『毎日新聞』2017年4月2日))。このように、今後の文学研究、出版メディア研究に寄与するものとして評価を受けているといえよう。 (2)国際シンポジウムでの発表 国際シンポジウム「人文学の再建とテクストの読み方:津田左右吉をめぐって」(2017年1月14日(土)於・早稲田大学小野記念講堂)にて、十重田・尾崎・塩野がそれぞれの研究成果を発表した。十重田の発表「二つの言論統制と対峙して」は、岩波書店と検閲の問題系について議論の整理を行い、尾崎の発表「戦前・戦中期の津田左右吉と岩波茂雄:内務省検閲と津田事件」では、津田事件の背景にあった文脈を新資料から再検討した。塩野の発表「占領期の津田左右吉:岩波新書『支那思想と日本』の検閲資料から」では、プランゲ文庫及び岩波書店で入手した新資料を用いて、津田による改稿箇所の解析を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は2016年度において順調に成果をあげ、当初想定していたよりも早く、研究成果の『岩波茂雄文集 全3巻』(岩波書店、2017年1月~3月)を刊行することができた。この3冊の研究成果は、尾崎名津子、塩野加織、十重田裕一の3名が編集にかかわっており、当該研究の成果の主軸をなすものである。『毎日新聞』での書評で大きく取りあげられるなど、一定の評価を得たように見える。また、研究代表者・分担者はそれぞれ、論文や国際シンポジウムでの発表などを行っていて研究の進捗状況は順調であり、前倒しで研究成果を公表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は2016年度の成果を踏まえながら、岩波書店ならびにメリーランド大学図書館のゴードンW.プランゲ文庫の調査を継続しながら、更なる研究を展開していく。岩波書店の出版物を対象に、帝国日本で行われていた内務省の検閲と占領期日本で実施されたGHQ/SCAP(General Headquarters/Supreme Commander for the Allied Powers、連合国軍最高司令官総司令部)の2つの検閲に関する新資料を収集・整理し、新たな研究の基盤を形成していくことを目指す。 すでに計画している研究成果の発表には、以下の2つがある。1つ目は、2017年6月18日に立教大学で開催される国際日本文化研究センターの共同研究「戦後日本文化再考」(代表:坪井秀人)において、科学研究費・挑戦的萌芽研究の当該テーマの発表を塩野、尾崎、十重田の3名で行う。ここでの報告では、メリーランド大学図書館のゴードンW.プランゲ文庫と岩波書店での調査などを通じて得た資料の分析の一部を報告し、参加者と議論する予定である。2つ目は、2018年1月に開催を計画している、帝国日本の内務省検閲と占領期GHQ/SCAP検閲との連続性と非連続性を検討する国際ワークショップである。以上の2つの計画を軸に研究を進めながら、それぞれ論文を発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度(2016年度)は、岩波茂雄関連資料の整理およびその成果としての『岩波茂雄文集』全3巻の準備が、当初の見込みよりも早く計画を達成できる目処がたったため、そちらを最優先させた。したがって、申請時点で予定していたプランゲ文庫資料調査のための出張は次年度以降に繰り越すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度(2017年度)には、国際日本文化研究センター主催の研究集会において、研究成果の発表を行うため、その出張旅費としての支出を予定している。また、占領期検閲資料の調査を行うために、米国プランゲ文庫への出張旅費を支出する計画である。
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