2019年度は、19世紀後半から20世紀初頭の英国におけるブレイク受容史について、調査範囲を拡大して、ウィリアム・モリスとブレイクとの接点を調べた。Pall Mall Gazette(1886年2月)が行った「良書百選」に関するアンケートで、モリスはブレイクを挙げ、'The Beauty of Life'と題した講演で、モリスはブレイクとコールリッジの音楽性に触れている。モリスはブレイクを読み、一定の評価を与えたことが確認できる。モリスの著書Hopes and Fears for ArtとSigns of Changeを調べたことにより、ブレイクとモリスとの関連を考えるための手掛かりとして、以下の三つの論点をとり出すことができた。(1)モリスが装飾芸術と美術との乖離に異を唱え、生活と芸術の統合を目指したこと。(2)モリスがゴシック建築における職人の仕事に注目し、労働の喜びを見てとったこと。(3)モリスが中世の彩飾写本を美しい書物の模範と位置付けて、理想の書物を刊行するためにケルムスコット・プレスを設立し、絵画と文字が同じ頁の上に印刷される形式を選んだこと。 英国のブレイク受容史において顕著なのは、神秘主義詩人としてのブレイク像であった。しかし、ウィリアム・モリスとウォルター・クレインに注目することによって、ブレイクの社会改革者としての側面が、19世紀から20世紀に活発化した英国社会主義運動の中に受け継がれたことが見えてきた。これらの研究成果の一部は、2018年8月4日に日本民芸館で行った講演(「総合芸術としての書物――ブレイク、モリス、柳宗悦」)と、2019年2月23日にNPO法人向日庵講演会で発表した「寿岳文章のウィリアム・ブレイク研究」に反映させた。まだ、どちらも活字にはできていない。
|