研究実績の概要 |
本研究は、アメリカ文学研究で看過されてきたイスラームの視点から新知見を見出し、未踏の領域を開拓することが目的であり、イスラーム研究といった隣接する学問領域にも貢献することを狙いとしている。 最終年度は、特に、アメリカ文学各作品のイスラーム表象と新たなアメリカ文学史の基礎的な構築を主眼とした。日本比較文学会第80回全国大会での研究発表では、作家というよりも、翻訳家としてのアメリカ人ポール・ボウルズに着目した。モロッコ人による口語アラビア語から英語へのボウルズの〈翻訳〉の成果である、ラルビ・ラヤチやモハメド・ムラベの〈翻訳文学〉を分析対象とすることで、〈翻訳〉に隠れる諸相をイスラームの視点で捉え、〈翻訳文学〉として流通する英語文学を、ボウルズと〈翻訳〉という視点で検証した。「アメリカ文学のイスラーム」を再確認し、「アメリカ文学史」の再構築を目指したといえよう。 次に、19世紀アメリカ文学において代表的なエドガー・アラン・ポーの短編「ライジーア」の分析結果を、『異文化研究』第13号(山口大学人文学部異文化交流研究施設、2019年3月)収録の英語論文にまとめ、イスラームの視点で「ライジーア」を捉えている。 本研究は、代表的なアメリカ文学史Sacvan Bercovitch, Cambridge History of American Literature (8-Volume Set, Cambridge University)でも看過しているイスラームの視点をアメリカ文学に導入している点が特徴的である。これまでに分析した、19世紀を代表するナサニエル・ホーソンの「優しき少年」や20世紀を代表するヘミングウェイの『アフリカの緑が丘』等を含め、イスラームの視点による「アメリカ文学史」再構築の土台形成となっている。
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