研究課題/領域番号 |
16K13204
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
松本 和子 東京理科大学, 工学部教養, 教授 (90385542)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | キプリング / 第一次世界大戦 / 女性キャラクター |
研究実績の概要 |
キプリングの小説に顕著な<帝国主義的マスキュリニティを反映した「男の世界」>の陰で後景化されている<女性キャラクターが重要な位置を占める「女の世界」>の前景化を図り、その存在意義の解明を狙う本研究の目的に沿い、研究初年度にあたる当該年度は、個性的な女性キャラクターが複数登場する後期作品を主な研究対象に据えた研究を行った。 具体的には、日本英文学会での発表(5月)およびProceedings 用論文の執筆(6月)において、「掃き清められて飾られて」、「メアリ・ポストゲイト」、「塹壕のマドンナ」、「園丁」の後期四作品を時系列で吟味し、フラットキャラクターからラウンドキャラクターへと女性キャラクターが変容するにつれて「女の世界」の存在感が増すことを実例と共に考察した。その数カ月後に脱稿した紀要論文(脱稿10月、刊行2017年3月)においては、英文学会での発表を下敷に、考察の対象作品を追加し、質疑応答で指摘を受けた時代相との絡みの弱さを改善した論文の執筆を試みた。これらの研究成果の集大成として行ったのが、年度末(2017年3月)のキプリング協会での発表にあたる。この発表では、作品を「塹壕のマドンナ」に絞り込み、第一次世界大戦を背景として描かれた同作品における女性キャラクターを<宿命の女>と位置づけ、作品論にウェイトをかけた論を展開した。 当該年度の研究の主な意義としては、1.後期作品における女性キャラクターの「進化」と呼びうるダイナミックな変容 2.その変容と時代相との密接な関係 3.自己を語ることが稀なキプリングが女性キャラクターを通じて自己投影を行っていた可能性 の三点が明らかにされたことが挙げられる。この三点の意義は、キプリングの小説の場合、男性キャラクターに比べてはるかに影が薄かった女性キャラクターに光をあてる価値があることを実証した点で大きな重要性をもつと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もっとも大きな理由は、当該年度に行った研究成果が、交付申請書の「研究の目的」に掲げた「キプリングの後期作品における『女の世界』の前景化」に直結する内容であったことに求められる。年度初めの口頭発表から年度末の口頭発表にいたるまで、当該年度の研究では一貫して、戦争との結びつきから無意識的に「男の世界」の物語という印象を与えがちな作品群が、実はむしろ「女の世界」を描いた作品とみなしうる可能性を訴え、次年度の研究に続く手ごたえを獲得することに成功した。 扱う作品の幅、ならびに研究推進速度という観点から「当初の計画以上に進展している」とは言えないが、計画内での研究という範囲であれば、「おおむね順調に進展している」が本研究の進捗状況に合致していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書作成時に目標とした「前年度に得られた知見の整理と総括」を念頭に置き、1.第一次世界大戦後の作品も射程に入れた研究 2.主要女性キャラクターのみならず、脇役的女性的女性キャラクターも考察の対象に含めた研究 3.「女の世界」が後景化されている事実が示す意味を明らかにする研究 の実践を主な方策として今後、つまり最終年度の研究を推進していく。1.については、初年度の研究が第一次世界大戦を軸に数年の幅をもたせたものにとどまった反省に根差している。2.は、研究題目にある「包括的な研究」を充実させるために、脇役的女性キャラクターへの目配りも行うことを意味している。3.は、本研究の総括の重要な部分を占めると予想されるものであり、「女の世界」の後景化が、キプリングによる隠蔽の一種ではないかという、初年度の研究に端を発する疑惑解明の試みを指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じてしまった理由は主として二つある。一つは、交付申請書作成時に設備備品費として計上していたパソコン購入のタイミングを逸したことであり、もう一つは、出張旅費として計上していた予算の執行を行わかったことである。最初の理由は、ソフトの互換性の有無に関する調査に時間がかかってしまったために生じた事態に由来するものであり、年度末の調査完了をもって次年度の購入に係る問題はなくなった。二つめの理由は、当初予定していた海外での文献・資料調査出張および学会参加などを実施する環境が整わなかったことが原因となっている。環境が整う目途が立ち次第、計画を実行に移せるように準備を整えている。
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次年度使用額の使用計画 |
本来残るべきではない次年度使用額については、交付申請書の記載にしたがい、設備備品費(パソコンの購入)としての執行を、また、旅費に関しては、国内外に赴いて行う発表・調査を組み込んだ研究計画を立て、実行に移すことを検討している。どちらとも現時点で目途は立っているので、使用に係るトラブルは間違いなく回避できる。
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