研究課題/領域番号 |
16K13209
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
逸見 竜生 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (60251782)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 『百科全書』 / ディドロ / 啓蒙 |
研究実績の概要 |
ディドロ=ダランベール『百科全書』(1751-1767)本文の基礎的校訂方法論は、いまだ十分に確立していない。本研究は、特に源泉批判論に基づく本文形成論に考察の焦点をあて、本文形成の実態の解明を課題とした。ディドロが直接の典拠とし、多くの場合引用明示をせずに暗黙に本文に移記した資料群を、同時代のテクストにあたって可能なかぎり選別・同定し、本文への組込に際しディドロが組織的に用いた特異な編集・編纂の様態を分析するのである。その際、本研究では本文批判の問題を作権史、書承史および編集史など本文を囲繞する18世紀に固有の歴史的諸問題と接続させて分析することを試みた。これによって、伝統的な文献批判論を凌駕する歴史的な地平のうちに『百科全書』本文批判論を再定位することを第2の課題とした。
ここまで行った研究は以下の通りである。I.『百科全書』ディドロ執筆項目本文の文献批判論、特に源泉となる先行文献の本文への取込と再生ないし改修、転位の様態の実証的解明。本研究ではかかる様態を「混態」という観点で整理して捉えた。さらに、II. 本文における作者の位階を問う作権(auctoritas, authorship)史、III. 先行文献の変形・変容とその『百科全書』による再固有化の歴史的文脈に注目する書承史である。今年度はまた特に、IV. 経年的な編集意図の変遷を再建する編集史らを考察し、『百科全書』本文形成を多角的な観点から歴史的に再構築することを試みた。
以上の研究から『百科全書』本文研究に累積してきた課題の解決に向けて、明確な方向性と指針を与える結果をもたらした。実現が待たれる『百科全書』本文批判校訂版の編纂に向け大きな意義を持つことになるとともに、国際学術機関と連携しての他の学芸著作本文批判にも応用可能な指針をえることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
『百科全書』本文形成をその編集意図に遡って捉え、なおかつディドロの思想形成のプロセスと交叉させる(I群課題)と、より広範な『百科全書』内外の諸文献の利用による編集過程の具体像を明確にする編集史的研究(II群課題)を中心におこなった。 そのなかで、今年度は特に海外研究者(5月、マリア=スザナ・セガン・モンペリエ大学教授、10月、カトリーヌ・ヴォルピヤック=オジエ・リヨン高等師範学校教授、さらにイ・ヨンモックソウル大学教授らとの学会ワークショップ、2月におけるシンポジウム「啓蒙における知」フランソワ・ペパン・リヨン高等師範学校客員教授ら4名らとの共同ワークショップ)を本科研費研究の一環として招致、I群およびII群課題の考究を深めるべく連携するとともに、本研究課題を海外に向けて発信することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1)源泉史料の特定と書誌・目録の作成:特に初期三巻における『百科全書』ディドロ執筆項目を解析する。それにより具体的にいかなる源泉史料をディドロが典拠として用いているかを明らかにし、史料の書誌・目録を作成する。特に本研究ではジェームズ『医学総合辞典』、ダニエル・ルクレール『医学史』、およびブリュッカー『批評哲学史』が中心となる。LecaおよびPepin、Volpilhac-Augerはそれぞれ辞書史学、科学史、哲学史の観点から書誌・目録作成に協力する。 2)源泉テクストの本文組込項目の索引化:i)源泉からの移記・転用の範囲は具体的にどの程度に及ぶか、1)の調査と平行して索引を作成する。『百科全書』電子化データファイルと索引・註釈作成の運用にPasseronおよびGuilbaudの協力をえる。 3)源泉テクストとの校勘と編集意図の再建:源泉史料群の識別(1)と移記の規模の及ぶ範囲(2)の調査を経て、源泉テクストとの校勘による、i) 移記における補間や改修、要約など、本文編集論上の移記行為の機能類型の解明、ii)前項でえられた移記類型と、項目執筆者や項目分野・項目分類の違いなどとの相関性の分析、iii)個別的編集意図の再建が必要となる。ここでは、共同研究者と分析結果を解析することによって、最終的には『百科全書』における源泉批判の問題に関する基礎的方法論を確立するところまでを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度開催される国際学会にて研究内容を公表するため。
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