ディドロ=ダランベール『百科全書』(1751-1767) 本文の基礎的校訂方法論の確立を目指す研究であった。特に源泉批判論に基づく本文形成論に考察の焦点をあて、これまで十分に解明されてこなかったその実態の考察を第1の課題とした。更に作権史、書承史および編集史など本文を囲繞する 18 世紀に固有の歴史的諸問題と本文批判の問題を接続させる。これによって、伝統的な文献批判論を凌駕する歴史的な地平のうちに『百科全書』本文批判論を再定位することを第 2 の課題とした。 特にJames『医学辞典』を中心にそのラテン語・フランス語項目見出しを網羅した全目録を作成し、百科全書項目との重複の有無をもとに両者の本文の徹底した比較を行った。またその過程で、リヨン高等師範学校における近世思想表象研究所との交流・協議を重ね、パリ王立アカデミー、フランス哲学的地下文書、モンテスキュー批評校訂版など18世紀における特にフランスを中心とする学術叢書・辞典編纂研究の知見を得て、その結果、18世紀の知的言説の刊行書籍における本文形成論上の顕著な特徴を見出すことができたとともに、作権や書承にかかわる新たな分析資料を広く総覧できることが可能となった。 また、ソウル大学18世紀研究との交換により、特に編集史におけるディドロを中心とした研究をすすめることが可能となった。国内の研究者との交流によって、いくつかの基幹大学図書館における機構書を直接研究する基盤形成も可能になっている。 現在までなお実現していない『百科全書』本文批判校訂版のための基盤整備を始め、学術的応用が期待できよう。
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