研究課題/領域番号 |
16K13212
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研究機関 | 北海道教育大学 |
研究代表者 |
大橋 賢一 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (20451453)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 杜甫 / 顧宸 / 『辟疆園杜詩註解』 / 版本 |
研究実績の概要 |
平成29年度は昨年に引き続き,『辟疆園杜詩註解』を所蔵する尊経閣文庫・慶応大学図書館に出向き,蔵書を実見した。 慶応大学図書館藏本は,一帙12冊からなり,合冊がみとめられた。また年譜の末尾に欠葉があったり,紙の質が粗悪だったり,評者や著者の名前が改訂されているなど,後に刷られた版本であることが確認できた。尊経閣文庫所蔵『辟疆園杜詩註解』は,無帙18冊からなる。刷りが美しく,虫食いも少なく,料紙も綺麗で全てにわたり整った作りになっていることが確認できた。上海図書館所蔵本でしか確認できなかった。嚴沆序11葉が1冊目の巻頭に置かれていた。また附属書一部が附されており,これには前田家に所蔵されるに至った経緯などが記されているようだ。『辟疆園杜詩註解』の版本に関する研究は、以上のようにすすめることができた。 『辟疆園杜詩註解』を用いた杜詩読解に関する研究については,「杜詩と棗」と題し,8月29日の語学文学会(於北海道教育大学釧路校)において研究発表を行った。この研究では主に杜甫「又呉郎に呈す」という詩を取り上げたが,この詩を分析するにあたり,顧宸の解釈が後の仇兆鰲に影響を与えたことを指摘した。また第28回中唐文学会大会では「「浮」かんでいるもの―杜甫「登岳陽楼」における「乾坤日夜浮」の解釈をめぐって―」(於山形大学)と題して,10月6日発表をした。この発表では,顧宸の注によりながら,「乾坤日夜浮」の再解釈をこころみた。翌年2018年3月24日『杜詩詳注』輪読会において「又呉郎に呈す」をとりあげ,顧宸の注を精読し,仇兆鰲の注との関わりをより明確にすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
版本研究という側面からは,尊経閣文庫及び慶応大学図書館という2つの図書館に実際赴き,それぞれの図書館に所蔵された版本の特色を明らかにできた。日本における主だった『辟疆園杜詩註解』の版本調査はおおむねこれで終えたことになる。 また顧宸注の研究という側面からも,顧宸の特色を踏まえた発表を3件することができた。語学文学会・『杜詩詳注』輪読会では,杜甫の主要な注釈書である仇兆鰲『杜詩詳注』に先行する『辟疆園杜詩註解』が,『杜詩詳注』に大きな影響を与えていることを具体的な作品を通して裏付けることができた。また中唐文学会の発表においては,『辟疆園杜詩註解』の解釈が現在主流とはなっていないが,杜甫の詩を読解する際に重要な指摘をしていることを裏付けることができた。 このように平成29年度では、版本学という側面,顧宸注の側面という2つの側面から一定の研究成果を提示することができた。 以上のことから平成29年度はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる平成30年度は,中国北京にある国家図書館藏本を閲覧し,『辟疆園杜詩註解』の版本に関する調査をまとめ,学会で発表する予定でいる。これまで調査した『辟疆園杜詩註解』は,東洋文庫藏本(2種),国立国会図書館本(2種),上海図書館本(2種),鹿児島大学図書館本,慶応大学図書館本,尊経閣文庫本の合計9本にわたる。これら諸本の書誌学的データをまとめ,和刻本との相違などを整理するつもりでいる。 顧宸の注そのものの研究については主に清・仇兆鰲との比較をすることで両者の影響関係を明らかにし,文学研究において清朝考証学的研究が,どのように進展したのかを明らかにしてみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度は国内の調査に旅費を費やしたため,海外での調査費に不足が生じてしまった。次年度に残りの金額を繰り越すことで,最終年度の海外調査費にあてることとするつもりである。
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