本研究は、清朝の比較的はやい杜詩の注釈書、『辟疆園杜詩註解』について版本学的な側面から、また内容的な側面の二方面から分析を試みたものである。 版本学的な側面からの調査については、『辟疆園杜詩註解』の版本を日本国内、及び中国においてできるだけ隈無く調査をした。日本国内では、国会図書館・国立公文書館・東洋文庫・尊経閣文庫本・鹿児島大学・慶応大学・京都大学の七館の藏書を、中国国内においては、上海図書館、並びに北京師範大学の藏書を閲覧し得た。 これらの版本の特色などについて整理を行った。調査の結果としてはいずれも同一の版本はなく、とりわけ序については、異同がめだった。また扉の有無についても相違があり、従来の版本整理には言及されていないことが調査の結果明らかにすることができた。また和刻本と原書との相違を検討した。双方の大きな違いはやはり和刻本が原書の多くを欠いている点にあった。また序についても、省略されているものがあることが確認できた。結果的に和刻本が何によったのかは判然としなかったが、日本人が『辟疆園杜詩註解』に何らかの価値を見出していたことは、当時の注釈受容を考える上で無視できないことがわかった。 注釈者、顧宸について、どのような人物であったのかを調査した。顧宸が当時としては著名な蔵書家の一人であること、そしてそのことが、杜詩に注釈を付する上で大きく役立てられていたことが確認できた。以上のように『辟疆園杜詩註解』が、清初の注釈として注目に値する成果であることを明らかにした。 こうした調査内容を第2回日本杜甫学会において考察をまとめ、あわせて発表内容を論文にし、『杜甫研究年報』第二号に掲載することとで、本研究の成果を公にすることができた。
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