本研究は、民間団体ながらも中国共産党の指導の下に置かれている中国作家協会が21世紀の今日において、作家や作品に如何なる物理的、現実的な影響を及ぼしているかを解明することを目的としている。具体的には、2004年から実施されている重点作品への支援制度に着目し、①制度自体が如何に創設され、運用されているかについて検討することと、②「重点作品支援篇目」に選ばれた個々の作品を読解、分析することを通じて、新時期における中国作家協会による個々の作家や作品への関与のあり方について調査と考察を行うものである。 令和元年度においては、論文1篇を発表し、台湾での6日間にわたる現地資料調査を実施した。 論文では、共産党の支配に反抗して台湾に逃れてきた金溟若の反共小説をとりあげ、1950年代台湾における「反共」意識の濃厚な文学状況の下で、「反共」「反専制」「反強権」を趣旨とする雑誌『自由中国』に掲載された作品が、必ずしも「反共」一辺倒ではない思索性と文学性に富む作品であったことを指摘した。この論文の他に、①の方針に則ったものとして、重点作品支援制度の実施運営全体を規定する「工作条例」の改訂について調査をおこない、そこで示された指針となる思想、支援対象、支援方法などが、その時々の中国共産党中央指導部の政治思想、文芸観、社会情勢により如何なる変遷を遂げてきたかを詳らかにした論文を執筆した(近刊決定)。 また、台湾での現地資料調査では、1950年代初頭の国民党政権による文学領域への介入状況、出版状況一般を検討する上で必要となる資料・文献の収集と実地調査をおこなった。中でも中華民国海軍の強い影響下で刊行された文芸娯楽雑誌に関する資料が収集できたことは、本課題研究に新たな地歩を拓くものとなった。 一方で研究の方針②については、作品の読み込みと資料の分析を行っていたが文章化するには至らなかった。
|