研究課題/領域番号 |
16K13216
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
寒河江 光徳 創価大学, 文学部, 教授 (60440228)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 文学理論 / 文学教育 / ナボコフ / 批評と創作 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ニューヨーク公立図書館、ワシントンD.C.の議会図書館に存在するウラジーミル・ナボコフのアーカイブ資料、また、ナボコフに関連するロシアや欧米諸国における関連資料を調査し、ナボコフがアメリカのコーネル大学やハーヴァード大学で行った『ロシア文学講義』、『ヨーロッパ文学講義』について、活字化あるいは出版されていない原稿の有無について整理し、ナボコフの文学講義の全体像を明らかにすることである。また、それと同時にナボコフが行った創作活動と講義の相関関係について調べることが主な目的である。この研究は純科学的なアプローチに留まるものではない。日本の諸大学においても、文化構想や表現文化、創造文化などの新設学部が開設されている。これまで日本で行われてきた文学研究は、主に批評を目的にしたものであったが、大学において批評と創作の相異なるアプローチを総合し、従来の研究方法を創作に応用し、創作を研究に応用するなど、両者の垣根が取り除かれるような試みがなされるようになってきた。ただ、そのような新しいアプローチにもそれなりのディスプリンの構築が求められる。ナボコフのような大学で教鞭をとりながら、創作活動を行ってきた作家の教育活動と創作活動について調べることは、両者の越えられない垣根を越えていくための重要な示唆を与えてくれるものである。本研究は、大学の夏休みや春休み、あるいは、長期研究期間を利用し、アメリカを中心とする図書館で史料の調査に励み、表現文化などの新しい看板を掲げた日本における高等教育の実践に応用する方法について考察するというものである。初年度はニューヨーク公立図書館、ワシントンD.Cの議会図書館で史料についての調査を行えた。2年目は、その成果を踏まえた著作『文学という名の愉楽――文芸批評理論と文学研究へのアプローチ』の執筆に集中した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は申請通りにニューヨーク、ワシントンD.C.にて史料の調査を行うことができた。ニューヨークの公立図書館では、すでに出版、邦訳がなされている「文学講義」についてのいくつものバリエーションを見出し、その違いについて記録することができた。また、その内容をもとに、東洋哲学研究所紀要にて「ミメーシスとは何か ウラジーミル・ナボコフの作品を通して読みの「再現」と描写による「再現」の意味を考える」を執筆・発表することができた。2年目はその成果をまとめるための作業に従事し、史料調査を十分に行うことができなかった。しかし、3年目は4月から8月まで在外研究休暇を大学からもらい、5月10日から8月10日までニューヨークに住んで現地でのアーカイブ調査を行うことができるので、2年目のフォローができると信じている。2年目に執筆に当たった書物は2018年4月3日に春風社より『文学という名の愉楽―文芸批評理論と文学研究へのアプローチ』というタイトルで出版することができた。この本は、ウラジーミル・ナボコフの文学講義を応用し創作と批評の空間を往来する表現文化のアプローチを組み立てることを目的としたものである。テリー・イーグルトンの『文学とは何か』や大橋洋一氏の著作を下地にしながら、従来の在り方で文芸批評理論を概説し、文芸批評の視点で作品を読解することを目的にし、なおかつナボコフが行った文学講義を応用し、理論的アプローチと非理論的アプローチを融合することを目標としている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる本年は、ウラジーミル・ナボコフが行った「文学講義」について、より精密なアーカイブ調査を行い、その史料について学び得た内容について、公表することが目標とする。特に5月から8月までニューヨークに滞在する間、ニューヨーク公立図書館でのアーカイブ調査をするのみならず、コロンビア大学にてのアーカイブ調査、ワシントンでの調査、ナボコフが在住していたボストン、イサカでの現地関連資料の調査、また、可能な限りアメリカ国内に出張し、現地のナボコフ研究者とコンタクトをとり、情報交換や資料収集を行って参りたい。具体的には、5月中旬より6月終わりまでをニューヨークでの史料調査期間と定め、7月のはじめにワシントンD.C.に出張し議会図書館での史料調査、7月の中盤および後半はイサカ、ボストンにての資料調査を行いたい。8月に入ってから日まではニューヨークに戻って再度史料調査を行うか米国各地での関連資料の収集に当たるからはまだ未定である。8月以降日本に戻ってからは京都大学で開催される『アーダ』の翻訳と注釈の研究会に参加し、史料調査の結果をまとめ論文にまとめていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
著作の校正に時間を費やしたため、2年目のアーカイブ調査を断念し、翌年への使用に回したため。
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