研究課題/領域番号 |
16K13216
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
寒河江 光徳 創価大学, 文学部, 教授 (60440228)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナボコフ / ロシア文学講義 / ヨーロッパ文学講義 |
研究実績の概要 |
2018年は、5月より8月まで米国・ニューヨーク州に滞在し、ニューヨーク大学で在外研究をする機会に恵まれたので、その期間、ニューヨーク公立図書館におけるアーカイヴ調査に没頭することができた。ニューヨーク公立図書館のバーグコレクションにあるナボコフアーカイヴの中で、日記、文学講義、文学史に関するメモ、昆虫学関連の資料、作品の翻案(戯曲、映画への脚本)等、今後ナボコフ研究において詳細に検討する必要のある様々な資料の複写をすることができた。中でも日記を調べながら『ロリータ』の冒頭箇所における次の一節を解明するヒントを得たのはありがたかった。'Exhibit number two is a pocket diary bound in black imitation leather, with a golden year, 1947, en escalier'(証拠品第2号は黒い偽の鞣し革でできたポケット日記帳、金文字で1947年が階段式に書かれている)。ナボコフ本人が使っていた日記帳を見た際に、まさに黒いカバーに金文字で左から年号が刻まれているのを目にした際非常に驚いた。収穫は他にもあった。例えば、既刊の『ロシア文学講義』では、ロモノーソフ、トレデャコフスキー、ヘラスコーフなどの18世紀のロシア文学者に対する言及はほとんど見られないが、ナボコフの実際のメモには、18世紀の文学者に対する言及がなされており、講義録として残っていることが判明した。小説の戯曲化の試みについてもナボコフが生前脚本家とやりとりをしており、『ベンド・シニスター』などの戯曲化を検討していたことがわかった。また、書簡集を、実際に目にし、ナボコフは伝記作者に全ての進捗状況を逐一報告するようにお願いしていたが、伝記作者はそれを守らず、なおかつナボコフの家族の歴史についても事実とは異なる表現を用いていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アーカイヴ調査については在外研究と重なったことにより、予想以上に資料を集めることができた。しかし、その資料の分析については残りの期間を使ってより精密に進める必要がある。文学講義に収められていないメモについては、翻訳を行い、公表する準備を進めていきたい。ニューヨークにいる間、この研究の一環で、イサカ市に訪問し、コーネル大学およびナボコフが住んでいた家を訪問するなど、周辺の地理的状況を確認した。ニューヨーク以外に、ロンドンに調査に出かけ、ケンブリッジ大学のトリニティカレッジや図書館を見学した。モスクワではゴーリキー文学大学、モスクワ市立教育大学において、研究成果を発表する機会に恵まれ、現地の研究者と交流、意見交換をする機会を得ることができた。モスクワで、ナボコフ作品の芝居を見たいと思ったがあいにくその時期に上演されているものはなかった。文学講義と創作との相関関係を探るというのが本研究の目的であるが、ナボコフ以外の他の作家との比較考察をすることによって、ナボコフと他の作家との類似性や差異を考察できると考える。これについては、残りの期間にインタビューを行い、ナボコフの場合との比較考察をしていきたい。機会があれば本年もう一度アーカイヴ調査を行えればと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
アーカイヴ調査によって様々な研究分野への可能性を模索することができた。未発表のロシア文学講義の発表、未公開のナボコフ作品の翻案についての研究、存命中の研究者との交流を書簡から明らかにすることなどである。今後はニューヨークで集めたアーカイヴの分析作業を進めて参りたい。また近々刊行する予定の書籍の中に、ナボコフと同じように現役の日本作家で教鞭を執りながら執筆活動に従事する村田喜代子氏にインタビューをし、創作と教育の相関関係についての質問をする予定である。同氏はデビュー作の『鍋の中』が黒澤明氏によって映画化され原作の解釈が大幅にねじ曲げられたという点で、ナボコフの体験と近いものを有している。ナボコフの場合、『ロリータ』がスタンリー・キューブリックによって原作の意図をねじ曲げられたことがナボコフとの仲違いにまで発展している。機会があれば、本年度もう一度ニューヨークに赴きアーカイヴ調査を行えればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
ニューヨークにおけるアーカイヴ調査が在外研究時と重なったため。
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