研究課題
音声に内在する時間構造を規定する生理的メカニズムを明らかにすることを目的とし,生理計測データの分析を実施した.調音運動と喉頭運動の協調動作に関する時間構造について生理的計測データに関して分析をおこなった.喉頭の閉小動作は話速が早くなるについて短くなるものの話速が一定以上の速度を超えると,開大の開始時刻は後続母音の持続時間を短縮し,声帯の開大時間では,声帯が開大する時間内で停止し,停止とともにすぐに閉小運動に転じることが明らかになった.破裂音の無音区間,摩擦音の摩擦区間の長さの変化は,話速が速い場合は,声門の閉小運動の速度が主な要因となっていることが分かった.この現象は,開大運動は主に,上昇する声門下圧と声帯の内転力との拮抗関係が崩れることにより開始し,外転させる声門内圧により運動速度が決まるが,閉小運動は,内喉頭筋による能動的な内転運動により,随意的に運動の速度が決まることによると考えられる.VOTなど子音の時間構造を決定する上で,速い話速では,声門の内転・外転運動における時間的制約が,先行・後続する母音に依存せず,子音の時間長に制約を与えることが示唆された.音声における発話速度を規定する要因として,声門の内転・外転運動,すなわち,披裂軟骨の内外転運動,また,その運動を実現するミオシン重鎖を有している時間応答の速い内喉頭筋(内転: 外側輪状甲状筋,披裂筋,外転: 後輪状披裂筋)の運動特性が大きな影響を与えていることが示唆される.
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日本語學研究
巻: 55 ページ: 127-139