言語学では特定の言語(例えば日本語)で自然な文(別名容認可能な文)と不自然な文(別名容認不可能な文)の区別を基にして,個々の言語の文法を特定する.しかし,専門家による容認性の判断は個々の研究者が想定している理論に影響され,結果が我田引水になりがちである(これを確証バイアスの影響があると言う).このため,言語学者の判断が,非専門家の判断と食い違っている可能性が以前から懸念されていた.本研究の申請時の目標は,非専門家による容認性判断データを十分に多く集め,それを元に専門家の判断の信頼性を評価する認証システムの試作する事だったが,予算の制限で認証システムの試作は断念し,容認度評定データの構築に専念した.それは以下の手順で進行した.
2016年度に刺激文の設計のための調査を実施した.一つは言語学の専門書で使われている事例のサンプリング,もう一つは,調査で使う刺激文がもつべき言語学的属性の希望調査で,これを言語研究の関係者を相手に行った.2017年度に入って実施した事は2つある.第一に,刺激文を自動生成するプログラムを開発した.第二に,そのプログラムを使って200種類の刺激文を生成した,それらを使って予備調査を実施した.被験者は東京,岐阜,博多の3地域で暮らす約300名の大学生だった.2018年度に300種類(予備調査の200例と30例ほどの重複あり)の刺激文を使った本調査を実施した.実施は調査会社の協力を得て,webで行った.被験者は1600名強だったが,調査結果の信頼性が確保できるように,被験者の属性のバランスを取った(性別のバランスを取り,年齢や出身地がなるべく多様になるように工夫した).予備調査と本調査の結果をまとめて,研究成果として2018年度内に一般公開した.
2018年度の本調査の結果を基にした国際学会への応募が採択された.4名の査読者のうちの2人から新奇性を認められた.
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