研究実績の概要 |
前年度までに、2~4歳児を対象にして、典型色である赤・黄・緑・青・紫・茶・オレンジ・ピンクの8色について、複数回同一児に対し理解課題と産出課題を実施した。理解課題は、8色の色チップの中から「〇〇色のチップを取って」と教示し、対象児が該当する色チップを選択できるかどうかを調査した。本年度は、そのうち理解課題に関する分析を進めた。理解課題において前の回に、8色のどの色語の正解パタンから次の回の特定の色(8色のうち1つ)の正解パタンをロジスティック回帰モデルで分析した。この際、説明変数を前の8色の正解/不正解0,1と切片とし、独立変数を次の1色の正解/不正解とした。前の回の調査で色語が正解の時に、次セッションで色点の色が正解であることと有意(t検定, 5%水準)に相関している。その結果、「赤」が「黄」に、「黄」が「青」に、「青」が「赤」に先行する形で、「赤」「青」「黄」の3色が相互に理解を助け合う形を形成している。さらに青を除く7色の色語については、前の回の理解課題においてその色を正解した場合に、次の回に有意に正解となった。このことは、「青」という色語だけが「青のチップ」を選択できることが必ずしも次の回も「青のチップ」を選択できる訳ではないことを示している。日本語においては、青信号・青菜・青い山を初めとする知覚的には「緑」のカテゴリーに属する知覚対象に対し「青」という色語が用いられる。これは、緑と青との混同を招くことが想像され、「青」と「緑」が相互に相関が高く、「青」の正答が「緑」の正答に先行するとともに、「緑」の正答が「青」の正答に先行し、混同から脱却するという過程が考えられる。この結果は、「青」という知覚的に顕著性が著しく、普遍性が高いと思われるような、初期に容易に獲得されうると思われる色語においてさえ、日本語の語彙特性が影響することを示す結果であったといえる。
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