研究実績の概要 |
本研究では、日本色研による色見本のうち7トーン(各12色相)の84種類と無彩色の9種類との合わせた93種類を刺激とした色語彙についての調査を、人工太陽灯照明の条件下で実施した。調査対象は日本語話者の成人・3歳児・4歳児・5歳児の4つのグループとした。そもそも、色語彙は各語彙の中心となる色(色見本)がある一方、その色語彙が表す色カテゴリーとしての範囲が存在する。つまり、赤という色語彙はピンク・オレンジ・紫といった似た色との関係性をも組み込んだシステムにより成り立っている。そういった日本語における成人の色語彙システムに対し、幼児がどのような過程を経て自らの語彙システムを近づいていくのか、その過程を明らかにすることが本研究の目的である。 調査の結果、93種類の色見本のマップは、3歳児は暖色と寒色といった大枠の中に、各色が布置されものとなったが、4歳児では赤・青・緑・紫・黄色といったいわゆる典型色が布置され、黄緑や水色はそれぞれ緑・青の領域内に布置される形となった。一方5歳児においては、成人のマップと同様に各色語彙に対する色カテゴリーを形成し、カテゴリ―が重複せずはっきりとした境界が観られた。また、成人が各93色の色見本に対して、どういった色語彙を重複して使うかという色語の範囲(どの色見本まで「緑」と答えたか)や、幼児コーパスCHILDESによる幼児の言語環境内における色語彙の頻度の観点から分析を行った。「赤」という色語彙は範囲も狭く、高頻度であり、3歳児という早い段階から正確に用いられ、こういった複数の典型色がまず色カテゴリーの大枠を決定し、水色・黄緑といった低頻度の色語彙が後から布置されていくことで語彙体系の再学習がなされることが示された。 本研究の成果はSaji, Imai, & Asano(2020)にて詳細に記載されている。
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