研究実績の概要 |
今年度の研究実績は次の3点に集約される: (1) 日本語連声データベース (以下「連声DB」) の設計: 研究会等で本研究計画を紹介すると共に、同データベースが広く活用されるための設計に関して多くの助言を得た。また、同データベース用の資料を充実させるため、所属機関の学生をアルバイターとして雇い入れ、代表者が所有していた方言談話資料の文字起こしや連声データの入力を進めた。 (2) 北薩摩方言における連声の調査: 同方言の聞き取り調査を、現地および所属機関で合計3回行ない、連声DBに収録する資料を得た。 (3) 日本語の阻害音における有声化と鼻音化との相関の解明: 日本語の阻害音は「清音」と「濁音」とから成る。両者の対立は、多くの場合、有声性の有無に拠るが、鼻音性に拠ることも有る。日本の東北部および南西部に分布する方言においては、母音の直後で清音p, s, t, kは有声化し、濁音b, z, d, gは鼻音化する。一部の研究者は、こうした清濁対立の地理的変種を踏まえて、古代日本語において清音の有声化と濁音の鼻音化とが起こっていたと見做している。この説を発展させるため、清濁対立の地理的変種に関して、次に挙げるふたつの事実を指摘した。第一に、bおよび/ないしzの鼻音化は、d, gのそれを常に含意する。第二に、清音の有声化と濁音の鼻音化は、ほとんどの方言において清音が無声摩擦音化している、p:b・s:z対立におけるものの方が、一部の方言において清音が有声閉鎖音で実現する、t:d・k:g対立におけるそれより早く失われる。
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