研究課題/領域番号 |
16K13229
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
相良 啓子 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 特任助教 (90748724)
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研究分担者 |
原 大介 豊田工業大学, 工学部, 教授 (00329822)
菊澤 律子 国立民族学博物館, 先端人類科学研究部, 准教授 (90272616)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 手話言語学 / 日本手話 / 台湾手話 / 言語変化 / 記号化 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、日本手話と台湾手話の史的研究に必要な資料収集及び、国内と台湾で、フィールドワークを行った。松永(1937)の『聾唖会』の中で書かれた「聾唖手まね事典」(5回シリーズ)には、手話表現の説明文と、イラストによる手型が書かれてあり、これによりその当時に使用されていた手話を知ることができた。また、約80年前の表現と現在使用されている表現を比較することにより、言語学的観点から手話表現の変化をたどることができた。また、研究分担者の菊澤、国立リハビリテーションセンターの手話通訳学科の担当者とともに、センターに収納されている過去の手話データの保存と研究資料としての運用について、検討中である。 フィールドワークは、東京、台北、台南でそれぞれ20名ずつ、大阪では15名の情報提供者からデータを収集し、20代から80代までの幅広い年齢層からのデータが得られた。これらのデータの中で、特に数の表現においては、現在日本の多くのろう者が使用していない表現が、80才以上のろう者から確認され、また、その表現は聾唖会に掲載されているデータとも一致するため、資料と収集データの両方から実在した表現形であることが確認できた。 得られたデータと文献を通して分析を進めているところであるが、現時点での中間報告として、12月3日~4日にかけて東京で開催された第42回日本手話学会において発表を行った。数詞、色彩、親族表現を対象とし、日本手話と台湾手話の言語変化のパターンには、融合、消失、同化などがあることが確認された。記述法については、音韻の専門家である原、歴史言語学の専門家である菊澤と共に進めているところである。 同時に、台湾においては、日本で古くから使用されている表現がそのまま変化せず使用されている語彙が多いという印象を受けた。今後はこの点について実証的な研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料の収集については、古日本手話についての情報および台湾手話の情報について、少しずつ進められているが、まだ十分とは言えないため、引き続き収集を続けていく必要がある。 フィールドワークについては、予定通り行えており、研究を進める上での十分なデータは得られた。おおむね順調に進展しているが、今後は得られたデータをいかに整理し、分析をいかに科学的に行っていくことができるのか、よく検討し、海外の手話言語学研究者との議論も交わしてつつ、進めていきたい。 研究論文については、平成28年度「歴史言語学」へ投稿した原稿を、現在リバイス中で、平成29年度6月までに完成させる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、収集したデータを基にして、分析を進めていく。予定していた通りの数多くのインフォーマントからのデータが得られたが、一部、中文手話使用者のデータも混ざっているため、有効なデータを整理し、分類しながら分析につなげていく。それぞれの地域における、数詞「10」「100」「1000」の分布状況と両手話における語彙構造の違い、また、語彙リスト200語の中で語彙変化がみられたものについて、どのような語彙変化のパターンがみあるのか、言語学的視点から分析を進める。分析については、海外の手話言語学者の専門家のこれまでの関連した研究や、意見も参考にしながら進める。 中間発表としては、7月31日から8月4日にかけて米国テキサスで開催される国際歴史言語学会で、研究分担者の菊澤とともに発表を行う。 国内における変種もさらに整理が必要になるため、後半は分析を進めるとともに国内における他地域の手話データの収集も行う予定である。 最終年度は、記述に専念し、質的および量的研究の双方からまとめていく予定である。記述にあたって、データに不明な点が生じた場合、それらについて確認するために、台湾への二度目の調査も検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
残金が残りわずかとなった。必要な物品購入や旅費としては十分でなかったため翌年の研究費と合わせて、有効に使用するため。
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次年度使用額の使用計画 |
収集したデータを収納するハードディスクを購入する。
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