研究課題/領域番号 |
16K13229
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
相良 啓子 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 特任助教 (90748724)
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研究分担者 |
原 大介 豊田工業大学, 工学部, 教授 (00329822)
菊澤 律子 国立民族学博物館, 人類基礎理論研究部, 准教授 (90272616)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 手話言語学 / 日本手話 / 台湾手話 / 韓国手話 / 記号化 / 言語変化 |
研究実績の概要 |
本年度は、『歴史言語学』第6号に「日本手話と台湾手話の語彙における変化をさぐる」をテーマとした論文が採択された。主に数の表現を中心として、音韻及び形態論的側面から変化の特徴について論じた。 6月にイギリスに訪問し、手話言語学の専門家らと歴史言語学研究について議論を行った。また、8月にサンアントニオで開催された第23回国際歴史言語学会で、研究分担者の菊澤と共に「Paradigm Leveling in Japanese Sign Language (JSL) and Related Languages」について発表した。日本手話と台湾手話、そして韓国手話の比較を通して、パラダイム全体が変化した例、部分的に変化した例があること、部分的に変化した箇所は言語が異なっても共通した変化がみられ、音を表出する手形の構音上の制約による変化のあり方であることを述べた。分担研究者の原とは、手話言語の記述法や音韻的分析のあり方について、議論を重ねた。 台湾手話と日本手話との関係性を明らかにするためには、国内での地域変種をさらに詳しく調査していく必要性があるため、大阪の手話と関連がある北海道や、古くからの手話が使用されている山口への語彙調査を行った。また、台湾へ2度目のフィールドワークで、日本統治時代に教育を受けた経験のある手話話者に対するインタビュー調査を実施した。そこでは、古くから使用されている表現を引き出すことができた。 12月9日から10日にかけて大阪で開催された「歴史言語学会」では、「日本手話、台湾手話、韓国手話の数の表現の構成とその変化:「10」「100」「1000」に着目して」のテーマで研究発表を行った。 これらのフィールド調査や国内外での中間報告等を通して、歴史変遷の解明に向けて必要なデータや論文構想が整ってきたため、最終年は更なる分析を進め、歴史変化の解明についての研究報告をまとめていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究成果として、『歴史言語学』に論文が採択され、本研究の成果を外部へ示すことができた点、フィールドワークが順調に進み、国内では、北海道や山口でも変種を収集できた点など、おおむね予定通り進展していると考えている。また、台湾へ2度目のフィールドワークが実現し、日本統治時代の教育を受けた経験のある手話話者の表現を引き出すことができた。今後はこれらのデータを基にして、古くから使用されている表現と現在使用されている表現の比較を通し、音韻、形態、意味的観点から分析を進めていく。データの記述法については、手話の「動き」の記述についての課題が残っているが、国内外の研究者とも議論を交わしながら、手話の記述法および分析のあり方についてじっくり検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、収集した国内外のデータをもとに、分析を進める。まず、数詞「10」「100」「1000」の分布状況を把握し、記述法を用いて、日本手話と台湾手話の二桁から四桁の数表現の構造の変化について質的および量的研究の双方からまとめていく予定である。その他の語彙についても、類似した表現に焦点をあてて、それらの違いを音韻、形態、そして意味の変化に着目して、それぞれの変化のあり方について分析を進めていく。 日本手話と歴史的に関係のある韓国手話についても、語彙の変化の違いを明らかにするためにデータの収集の必要性がある。7月頃に韓国への現地調査を予定する。 また、中間報告として、8月にポーランドで開催される「SIGN9 conference」での研究発表を行い、海外の手話言語学の専門家と議論を通して、手話言語における歴史言語学研究の方法論につなげていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、分担研究者の原との打合せ回数が、相良のフィールドワークに合わせて、当初予定していたよりも減ったためである。次年度の計画としては、研究成果をまとめるにあたって、打合せに発生する旅費に使用する。
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