研究課題/領域番号 |
16K13255
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
佐々木 雅子 (島崎雅子) 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (00292392)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 異文化間コミュニケーション能力 / 言語能力 / 小学校英語 / 活動デザイン / 指導方法 / 評価方法 / オーストラリア / スカイプ |
研究実績の概要 |
本研究は「異文化交流と言語習得が表裏一体となった授業作りの体系化」を行うことを目指す。平成28年度の研究では、1)活動デザイン、2)指導方法、3)評価方法の3つの観点から、下記のような成果を得たことを報告する。 1)異文化間交流活動のデザインについて:異文化間交流活動をデザインする上で、理論的枠組みを設定することは欠かせない。理論的研究を進めた結果、Byram (1997, 2008, 2009)の提案するintercultural communicative competence (ICC) を本研究の理論的枠組みとすることとした。ICCは、外国語学習者の目指すべきモデルをnative speaker (NS=母語話者)とせず、より包括的な概念を指す。だからといってlinguistic competence(言語能力)を疎かにしているわけではなく、linguistic competence, sociolinguistic competence, discourse competenceにintercultural competenceを併せ、相互関連させながら総合的に駆使する能力の育成を提案するものである。 2)指導方法について:手始めとして、日本とオーストラリアの小学生の交流授業を録画しトランスクライブして、現在の授業がどのような特色を帯びているか、会話分析の手法を用いて明らかにしようと試みた。交流を楽しむ情緒的側面における効果を保持しながら、意味から形式へ注意を向けるフォーカス・オン・フォームの方法について具体的に考えるデータを得ることができた。 3)評価方法について: 行動観察評価、自己評価、パフォーマンス評価、ポートフォリオの4つの評価方法のうち、自己評価の実態を調査するに留まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の研究の進行状況は全体的に見ると計画よりもやや遅れていることは否めない。大きな理由としては、研究遂行の基盤となる理論的枠組みについての理解と考察について多くの時間を費やした点にあると思われる。研究を進める上で理論的枠組みを定めることが前提であるため、文献調査や実践例の調査を納得がいくまで進めていったものの、並行して実践的な小学校の合同授業を計画し日程調整することが予想通りには進まず時間がかかった。実際には、日本の小学校とオーストラリアの小学校との交流日程を交渉して合同授業の実施までこぎつけたものの、具体的な指導方法と評価方法について検討するなど、研究を進めるために必要なシミュレーションの実施などの時間を確保することができなかった。 しかしながら、ICCを理論的枠組みに決定する過程において、言語能力が異文化間コミュニケーションに必要な能力のすべてではないことに確信を得たこと、また、教室内だけでなく、スカイプなどICTの活用による英語母語話者とのコミュニケーションを学習環境とした場合の小学生が抱える言語能力上の限界を実際に観察し記録することができた。 時間と計画性の不足により、具体的な指導方法と評価方法まで考えを尽くすことができず残念ではあったが、研究のスタートとしては堅実なスタートであるとも言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の観点は、平成28年度同様、1)異文化交流活動のデザイン、2)指導方法、3)評価方法の3つの観点から成る。 1)異文化間交流活動のデザインについて: Byram (1997, 2008, 2009)のintercultural communicative competence (ICC) を理論的枠組みとして、具体的な活動をデザインする。活動をデザインするにあたり、児童の異文化理解に対する変容と英語能力の伸びを促進することが可能となる活動をデザインする。デザインした活動に改善を加えながら体系化を目指す。観察、インタビュー、アンケート、ポートフォリオを用いた調査と分析により、工夫し改善するべき点を明らかにしながらより良い活動をデザインしていく。ICCの下位区分能力を相互関連させながら総合的に駆使する能力の育成を目指していく。 2)指導方法について:言語能力の育成については、意味を重視しながら必要に応じて形式に注意を向けるフォーカス・オン・フォームについて理解を深め実践できるように、教師の自己省察を深めていく。異文化間コミュニケーション能力の育成については、オーストラリアの小学校との交流による児童の動機付けや情緒面の変容について調査するとともに、ICCで示されている下位区分能力についての観察と分析も試みる。 3)評価方法について:行動観察評価、自己評価、パフォーマンス評価、ポートフォリオの4つの評価方法を相互に関連させた分析を行う。児童と教員に対する波及効果については、アンケート調査とfocus group interviewを行い、それぞれの評価方法および4評価の関連付けによる総合的な評価方法の改善を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究遂行の重点が、研究遂行の基盤となる理論的枠組みについての理解と考察に置かれたため、実践的な小学校の合同授業を計画実施し豊かな実践を作り上げるための学習環境、および、データを収集し分析するための充実した研究環境を整えることが難しかった。学習環境については、ICTを活用した学習環境を整備するため様々な情報を得ることを目的として構想を立てたものの、実際に整備するには至らなかった。研究環境については、研究打ち合わせにあまり時間を取ることができなかったことに加えて、合同授業のための活動デザイン、指導方法、評価方法について研究を深める資料や最新の知見を得るための学会参加ができなかったことが理由として挙げられる。以上、学習環境と研究環境の整備について、予定した通りに実行する機会をうまく捉えられなかったことが理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
学習環境と研究環境の充実、研究会や学会で最新の知見や専門的知識の獲得、指導教材や評価資料の作成に使用する計画である。 学習環境については、スカイプによるオーストラリアとの合同授業を豊かにするICT機器の活用を調査し試みる。研究環境については、限られた時間で会話分析による詳細な言語使用のデータ分析を行うために必要な人件費とデータ収集整理に必要な消耗品を購入する。最新の研究動向を捉えるためには、専門雑誌掲載論文と図書に盛られている知識を解釈した上で、研究会や学会等に参加し実践への活用を実現する。指導教材と評価資料については、異文化間コミュニケーションを言語活動として実施するためのオリジナルな教材と資料の作成に必要な物品を購入する。
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