研究課題/領域番号 |
16K13255
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
佐々木 雅子 (島崎雅子) 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (00292392)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 異文化間コミュニケーション能力 / 小学校英語 / 活動デザイン / タスク / 指導方法 / 評価方法 / 自律的学習 / 言語能力 |
研究実績の概要 |
本研究は、「グローバルに発展する社会に対応する一方策としての異文化間コミュニケーションは、英語教育のカリキュラムの中でどのような位置にあり、そしてその意義は何か。」というテーマの下、今年度も研究を進めた。今年度の研究内容は、(1)異文化間コミュニケーションという場としてのSkype接続による合同授業が小学生に与え得る影響についての調査、(2)絵本を活用したタスクのデザイン、(3)地域と連携した短期集中型の異文化交流実践プログラムの3つに分類される。すべて、「異文化交流と言語習得が表裏一体となった授業作りの体系化」を行うことを目指して、実践と研究を進めた。 Byramのintercultural communicative competenceをもとに小学校の実践場面で運用しやすいよう、「異文化間コミュニケーションは言語能力をも伸ばす要素を兼ね備える場」と簡略化した定義を実践的研究の柱に設定し、下記の4点を研究の方向性に据えた。(1)異文化間コミュニケーションを言語能力育成の指導方法(手段)と限定して捉えない(コミュニケーション自体が主目的であり、初めから言語習得の手段としない)。(2)地球規模で活動することができる人材育成の教育的指導方法として捉え直す。(3)教育的指導方法という枠組みの中で、異文化間コミュニケーションを「言語能力をも伸ばす要素を兼ね備える場」と捉え直す。(4)異文化間コミュニケーションが学習者に与える影響を効果的に利用した指導方法と評価により、学習者が自律的に言語能力を伸ばすよう仕向ける。 平成29年度は、Skype接続の合同授業のみに限定せず、絵本を用いた異文化交流を含むタスクのデザインおよび地域と連携した短期型異文化交流を含み、異文化間コミュニケーションを「自律的外国語学習へとつながるコミュニケーションの場」と捉え直して研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究の進行状況は、全体的に見るとおおむね順調に進行しているといえる。平成28年度は、異文化間コミュニケーションという場としてのSkype接続による合同授業に限定した形で研究を進めたが、当初予定していたオーストラリアの小学校の日本語授業担当教員の交代があり、合同授業を進めていくことが容易ではなくなった。新任の教員との連絡を開始しているが、以前と比べて難なく遂行できる状態にはない。したがって、現在は他のオーストラリアの学校を探し出し、合同授業について話し合い計画を進めているところである。 予期しなかったオーストラリアの小学校との連携の難しさは、一方で研究の捉え直しをする契機となった。Skype接続による合同授業に研究を限定するのではなく、絵本を素材にした異文化理解を含むタスクのデザインや、秋田県横手市と連携した一泊二日の短期型英語プログラムの計画・実施についても本研究の範囲に加えることとした。 当初の計画に上記の変更を加えながらも、本研究の目的である「異文化交流と言語習得が表裏一体となった授業作りの体系化」について継続して研究を進めてきた。異文化間コミュニケーションを「自律的外国語学習へとつながるコミュニケーションの場」と捉え直し、小学校における異文化間コミュニケーションの活動のデザイン、指導方法、評価方法について研究を進めていることから、おおむね順調に進行していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進の観点は、平成28、29年度同様、1)異文化交流活動のデザイン、2)指導方法、3)評価方法の3つの観点から成る。また、今年度が本研究の最終年度であるため、研究結果を集約できるように進めていく。 1)異文化間交流活動のデザインについて:小学生段階における異文化間コミュニケーションの場となる活動のデザインを計画し実施する。具体的には、(1)Skype接続の合同授業を中心においた単元の活動デザイン、(2)絵本を用いた異文化交流を含むタスクのデザインの充実、(3)地域と連携した短期型異文化交流プログラムの活動デザインを進める。 2)指導方法について:異文化間コミュニケーションにおける実際のやり取りにおいて、会話を進める中で小学生が自信を持ち達成感を得られるようなかかわり方を追求する。異文化間交流が学習者に与える影響を明らかにし、その影響を効果的に利用した指導方法を明らかにすることを目的とする。 3)評価方法について:行動観察評価、自己評価、パフォーマンス評価、ポートフォリオの4つの評価方法を相互に関連させることを試みながら、学習者が自律的に言語能力を伸ばすよう取り組めるような評価を追求する。 本研究を遂行するためには、オーストラリア側の学校の協力が必須であるが、対応策としては学期の違いに留意しながら、目標言語の母語話者同士であるという利点を生かした活動をデザインし実施することが肝要である。また、地域と連携した短期型異文化交流プログラムの活動デザインを効果的に実施するためには、教員志望の日本人学生と留学生からの協力が必要である。彼らが活動デザイン、指導、評価の目指すところを理解し実践できるように、事前の計画と準備を進める必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成28年度に研究が思うように進まなかったため使用額は小さかったが、平成29年度は当初の年度助成額はすべて使用したほか、平成28年度分からの繰越助成額の3分の1程度を使用した。平成29年度は平成28年度の遅れを取り戻すため、学会発表、合同授業のための活動デザイン、指導方法、評価方法について研究を深める資料や最新の知見を得るための学会等の参加、遠隔交流のためのICT機器の活用についての調査、海外の交流校の発掘、会話分析のためのソフトウェアの購入等分析の環境整備を行った。しかしながら、平成28年度の繰越金額が大きかったため次年度使用金が生じている。 (使用計画)平成29年度と同様、学習環境と研究環境の充実、最新の知見や専門的知識の獲得、指導教材や評価資料の作成に使用する計画である。学習環境については、異文化間コミュニケーションを充実したものにできる教材開発に使用する。研究環境については、限られた時間で会話分析による詳細な言語使用のデータ分析を行うために必要な人件費とデータ収集整理に必要な消耗品を購入する。最新の研究動向を捉えるためには、研究会や学会等に参加するとともに、同様の研究を進めている研究者から専門的知識の供与を受ける。指導教材と評価資料については、学習者が自律的に言語能力を伸ばすような教材と評価の作成に助成金を使用する。
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