研究課題/領域番号 |
16K13260
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木下 徹 名古屋大学, 国際開発研究科, 教授 (90177890)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳科学 / 脳画像イメージング / 複数脳 / 第2言語習得 / 日本人教師 / 学習者 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、元々は、複数の脳を同時計測することで、第2言語の学習者間(同母語間及び異母語間)、学習者と教師間(同母語話者及び異母語話者間)で、各種の課題を単独で実施した場合と比較して、脳賦活のパターンにどのような共通性と相違性が見られるのかを探求したいというものであった。これにより、脳科学の基礎研究の側面では、単独の脳を対象とした、各種の脳機能の局在説に対して従来からの視点とはやや異なる観点からの検討を加えることのみならず、単独の脳内における各部位間のネットワーク仮説にも、別な視点からの、発展の可能性を探ろうというものであった。さらに、言語の習得面では、複数脳の有機的な連動性と共通性の点から学習者相互、Non-Nativeのピア学習者、および、日本人学習者にとっての日本人教師の潜在力に脳科学の観点から見た、新たな光を当てる可能性も視野に入れていた。 平成28年度は、当初は、単独脳と複数脳の違いに焦点をあてるため、主として、単独でも成立する課題(先行研究との比較可能性も考慮したもの)を用いて、実験・測定を行うことを予定していた。しかし、実際に実験デザインの細部の検討に入ったところ、インタラクションの有無とその程度を含めた、複数脳での課題遂行を視野にいれた単独脳での課題の選定という点をはじめとする、リサーチデザイン上の問題で、種々の、なお、慎重な考慮を要するべき問題が浮上してきた。また、実験課題実施時における、潜在的ノイズの特定とその対策についても、検討するべき案件が存在することがわかってきた。その為、本年度は、先行研究を再度渉猟し、研究課題と実験タスクを再度、全面的に検討し直すことを中心とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
進捗状況は、実績報告の個所で述べたような事情で、当初の計画からは遅れているといわざるを得ない。現在、なお、再検討している問題は種々あるが、そのうちの一つは、単独脳での課題遂行時といっても、後程の、複数脳での反応を比較の対象として視野にいれた場合、課題遂行時に、パートナーの存在を、主観的・客観的に、どのように統制するかという問題である。つまり、一方では、単独での実験タスク遂行時といえども、パートナーは物理的に存在しなくとも、いわゆるimagined community 的なものをはじめとする、実験参加者が主観的に、パートナー的存在をどの程度意識しているかによっても、脳血流反応は異なる可能性があることが予想される。他方、逆に、パートナーがすぐ近くに、いても、タスクが単独で完結する場合、実験参加者が、課題遂行に没入すればするほど、主観的にはその存在を無視することも考えらえる。 従って、現状は、このような、パートナーの客観的な存在の有無と状況、実験参加者のパートナーの存在に関する主観的認識、および、実験タスクの種類と内容という3者間の関係を再整理し、より適切な実験デザインの再構築を模索している段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の展望としては、研究課題の再考察と実験タスクの再検討を、できるだけ速やかに終えて、実験デザイン全体を修正して、本年度後期には実験を開始し、当初の計画の一部変更も加えつつ、来年度前期までに計画の遅れをできるだけ吸収することを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の実施状況の個所で説明したように、研究課題と実験タスクの関係、および、方法論におけるデータ処理上の問題、その他実験デザイン全体について、いくつか重要な見直しをせざるを得ない状況が生じたため、本年度は研究全体について、必要な再検討を加えることに終始し、実際の実験の実施までに至らなかった。その為、大部分の予算については執行を次年度送りにすることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
計画の再検討と修正を、極力、平成29年度の前半に終えて、後半では、本来ならば、計画の1年目に行う予定であった、実験を実施することを目指したい。さらに、事情が許せば、本来の計画の2年目で実施する予定であった部分も、年度末を目途に、予備実験等を中心に開始したい。
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