バイリンガルは一つの言語のみを使用する状況においても,両言語を活性化させた後,使用しない言語を抑制して発話を行うことが先行研究により明らかにされている。本研究では学習者,とりわけ,第二言語の熟達度がある一定のレベルにあり,第三言語を学習している人を対象に,第三言語の使用時に第一言語と第二言語をどの程度抑制しているのかについて,線画命名課題を用いて調べた。その結果,日本語を第一言語,英語を第二言語とするスペイン語学習者が,スペイン語で線画の命名を行った後に日本語や英語で線画の命名をすると,スペイン語での命名の前に日本語や英語で命名をする場合よりも遅くなった。この差は日本語での命名よりも英語での命名の方が大きいことも明らかになった。また,一言語のみで命名をする場合(blocked naming)と複数言語で命名をする場合(mixed naming)を比較したところ,スペイン語では両者に差が見られなかったが,日本語と英語は複数言語が混ざっている場合よりも一言語のみの場合の方が速かった。この傾向は日本語よりも英語の方が強かった。これらのことから,第三言語のスペイン語で発話を行う時には,熟達度がもっとも高い第一言語の日本語よりも,スペイン語と類似性の高い第二言語の英語をより強く抑制していることが明らかになった。これらの研究成果は,国内外の学会・研究会にて報告を行った。今後は学術雑誌への投稿の準備を進め,論文にして研究成果を公開していく予定である。
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