研究課題/領域番号 |
16K13272
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研究機関 | 相模女子大学 |
研究代表者 |
宮本 節子 相模女子大学, 学芸学部, 准教授 (80386896)
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研究分担者 |
渡辺 幸倫 相模女子大学, 学芸学部, 教授 (60449113)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国際語としての英語 / 異文化コミュニケ―ション / 分野別英語教育 / 観光英語 / タイ王国 |
研究実績の概要 |
本研究はタイ英語を学習課程に組み込み、日本の観光業従事者、及び外国人接遇のための英語を学ぶ学生に向けて教材化することを目的としている。World Englishes(WE)論によれば、タイ英語は独自の規範確立に足る使用域と機能を持たないとされる英語変種の一つとみなされているため、本研究はEnglish as an International Language(EIL)論の理論から実践に踏み込むための実験的試みとなる。 研究初年度である平成28年度は、国際英語に関する諸理論に関する文献研究に加え、教材化の前提となるタイ英語学習に対する現実的なニーズの確認をホテルスタッフへのインタビューを通して行い、ここで明らかになった課題を大学生に対する言語態度調査によって確認するという作業を行った。また、タイでの予備実地調査も実施し、訪日旅行を扱う在タイ旅行会社や訪日旅行経験者、現地での英語教育経験者から情報を収集した。 これらの調査から、タイ英語は日本人現場スタッフにも大学生にも「わかりにくい」と感じられ、コミュニケーション上の課題となり得るが、対策の必要性に反して「タイ英語を学ぶ」という視点は見られないという事が確認できた。これは本研究の基本的な認識と共通しており、タイ英語を学習対象としてとらえなおす必要性が実証されたと考えられる。これらの調査・分析結果を国際学会において発表し(22nd Asia Pacific Tourism Association、2016年6月)、初年度調査の概要を論文として取りまとめた(『相模女子大学文化研究』第35号、2017年3月)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の2回の調査を経て、本研究の初年度における優先課題であった拡大円に属する英語、特にタイ英語の潜在的学習ニーズが高いことを確認することができた。ホテルスタッフへの聞き取り調査を通して、タイ英語の特徴を集約、言語化したものに触れる機会がないために英語変種の一つとして捉える視点を持っていないことが推測できた。更に、各種の拡大円英語との接触機会の少ない大学初年度生を対象とした言語態度調査においてもタイ英語への評価は顕著に低く、インタビューから得たタイ英語の困難性を裏付けるものとなった。これにより、タイ英語を学習対象として捉えなおす必要性が実証されたと考えられる。様々な英語変種への理解を盛り込んだ英語教材研究が進みつつある中、タイ英語の教材化がもたらす意義は大きいとの認識を再確認した。 これらの分析結果を論文及び国際学会において発表した。2016年6月のAsia Pacific Tourism Associationにおいては、訪日外国人の拡大円英語の特徴を集約し教材化することによって、学習者が英語をリンガ・フランカとして再認識し、訪日外国人が話す英語への言語態度の肯定的変容を促し、英語での接遇の質を向上させる有効な手段になり得ることを論じ、アジアを中心とした観光分野の研究者からは肯定的なフィードバックを得た。 初年度に得られた知見を「日本における『タイ英語』の認識について」の表題で論文としてまとめたが、そこで指摘した通り、教材作成のための具体的な学習対象場面を特定するための調査分析、また一般的な英語学習にESPとしてタイ英語を組み込んでいく方策作りは翌年に持ち越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度はタイ英語の教材作成を目指し、現実の訪日旅行場面のどのような文脈でタイ英語が話されているのか、タイ英語のどのような特徴が日本英語話者にとって学習が必要な部分なのか等について考察を進める。 具体的には、1)タイ人旅行者の視点からのタイ英語の学習ニーズを分析、2)日本人学習者に向けたタイ英語の特徴を抽出、3)また学習教材全体におけるタイ英語教材の扱いを検討する。2)においてはタイ英語の音声的特徴に精通した国内外の専門家、特にタイでの英語教育専門家の協力が必要となるため、現地での調査・学会参加を通して人的ネットワーク構築を精力的に行う予定である。並行して3)については、English for Specific Purposes(ESP)分野における先行研究及び先行実践例についての文献調査を継続して行い、教材開発における理論的根拠を明確にする。これについても国内外の学会にて英語教育の専門家からフィードバックを得る予定である。2017年5月現在、日本アジア英語学会(6月24日)、International Association of World Englishes(6月30日‐7月2日)での口頭発表、またタイ・タマサート大学主催ELT学会(7月7日)にてタイ英語に特化した教材作成に関するワークショップの実施を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費については、出張の時期や期間を精査することで、当初請求費より大幅に減額することができた。また、人件費・謝礼費についても、謝礼費の生じない識者・協力者への取材が多かったため、当初請求額に未使用が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」にて先述した通り、2017年度は5月現在で1回の国内学会、2回の国際学会への参加を予定しており、これらの旅費に充当する予定である。
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