研究課題/領域番号 |
16K13277
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 大介 東北大学, 災害科学国際研究所, 准教授 (50374872)
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研究分担者 |
佐藤 正恵 石巻専修大学, 人間学部, 教授 (00211946)
Morris John.F 宮城学院女子大学, 学芸学部, 教授 (30220057)
上山 真知子 山形大学, 地域教育文化学部, 教授 (80344779)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 災害支援 / 臨床心理学との学際連携 / 歴史資料保全 / 心理社会的支援 |
研究実績の概要 |
本年度は、東日本大震災で被災し、古文書レスキューの対象となった個人の歴史所蔵者10名に対し、臨床心理学者による聞き取り調査を実施し、歴史資料保全の心理的回復における役割について研究するための資料を収集した。また、被災地で実施した市民向けの歴史講演会について、宮城県松島町、石巻市、丸森町の三か所で約200名分のアンケート調査結果を収集し、調査分析を実施した。 被災した個人所蔵者の聞き取り調査からは、自家や地域の歴史に対する意識が文化財の保存と継承に対する動機付けにつながっている一方、被災後の自我の回復、地域再建における歴史遺産の位置づけ、また個人的な災害への区切りという点で動機付けの一つとしての役割を果たしていることを明らかにした。 一方、市民に対するアンケート調査からは、被災した地域の歴史に関する具体的な歴史講演の内容を確認することにより、現存する景観や遺物に対する認識が変化し、歴史文化遺産の保全に対して積極的な意識が喚起されることや、それらが被災当時の記憶とリンクして想起される可能性について確認することが出来た。 一連の活動における研究成果については、2016年7月に横浜市で開催された2016年国際心理学会大会(ICP2016)において、研究代表者の佐藤、分担者の上山による口頭発表と、研究グループ連名によるポスター発表を行い、日本における歴史文化を通じた心理社会的支援の可能性について報告した。同年9月にはアメリカ合衆国・ドレクセル大学とオハイオ州立大学にてセッションを開催し、歴史文化を通じた心理社会的支援のあり方についての共通認識の確認を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度については、個人の所蔵者に対する聞き取りについて、全体の3分の1にあたる人員に対して聞き取りを実施した、また、宮城県被災地に加え、福島県の原発被災地でも所蔵者に対する聞き取り調査を実施する事が出来、地域間比較に資する情報を得ることが出来た。被災者全般に対する歴史文化遺産の果たす役割についても、アンケート調査を通じて今後の研究に資する情報を多数得ることが出来た。また、初年度から国際心理学会大会による成果の国際学会発表を実施する事が出来た。大会では海外の研究者から日本の歴史文化保全がもつ心理社会的支援としての可能性を指摘する質問が出された。大規模災害における歴史文化遺産の役割に関する研究成果が、地域を超えて普遍化できる災害支援の一助となり得る可能性を確認することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
聞き取り調査に同意している個人の史料所蔵者に対して、継続的な聞き取り調査を実施し、被災者にとっての歴史文化遺産保全の意義について引き続き確認する。また、本年8月にオランダで開催されるヨーロッパ心理学会での発表を応募して採択されており、アメリカに続いてヨーロッパでの海外発信を行う予定になっている。一方、歴史資料を取り巻く地域の状況についても、引き続き調査研究を行うとともに、津波被災地における連続歴史講座での調査を通じて、いわゆる「心の復興」における歴史文化の役割について時期的な変化を踏まえて資料収集を実施することにしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定した研究活動については十分に実施したことが前提だが、海外旅費について一名キャンセルしたこと、聞き取り調査については先方の都合などで実施出来なかった事があった。
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次年度使用額の使用計画 |
調査未了分の調査および国際学会の旅費、旅費および通信費などとして利用する予定である。
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