本年度、代表者と分担者は、研究成果の発表として、1冊の著書と5本の論文の公刊、4本の学会発表をおこなった。このうち3本の論文と2本の学会発表は海外で発表したものである。また研究会や講演会を開き、研究分担者の小尾孝夫による「宋文帝元嘉北伐史初探」、同じく河上麻由子による「帝国の崩壊とその周辺:『大隋九真郡寶安道陽之碑文』を中心に」、同「日中古写経中『広弘明集』巻十三について」、清華大学の侯旭東教授による「王莽的肉羹:皇帝的生活空間与日常交往」、海外研究協力者であるソウル大学の趙晟佑助教授による「敦煌写本『仏説般泥ハン後比丘十変経』小考」、同じく海外研究協力者である南開大学の王安泰副教授による「三国時代の地方行政システムと正統観」などの研究発表をおこなった。また代表者は「戸隠の会」夏期研究合宿で「五胡十六国時代の天王称号の歴史的位置づけについて」と題する研究発表をおこなった。 上記の業績のうち、『378年 失われた古代帝国の秩序』(共著、山川出版社、2018年6月刊行)で代表者が執筆した「漢帝国以後の多元的世界」は、本科研の総括に相当するもので、383年のヒ水の戦いが、中国の一元的な支配による統一の最後の試みであり、東アジア世界が多元的な世界へと変容していく転機であったことを明らかにし、ヨーロッパにおいてローマ帝国の後退が決定的となった378年のアドリアノープルの戦いに相当する世界史上の画期であったことを示した。 そこでこの研究成果を多面的に検証し発展させていくため、新たに獨協大学の小宮秀隆講師(韓国古代史)を研究分担者に加え、また多国籍からなる中国史・日本史・西洋史の研究者の協力を得て、科学研究費補助金基盤研究(B)「東アジア史における「古代末期」の研究」(平成30年度~平成34年度)を申請し、採択を得た。
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