研究課題/領域番号 |
16K13289
|
研究機関 | 秋田工業高等専門学校 |
研究代表者 |
長井 栄二 秋田工業高等専門学校, 一般教科人文科学系, 准教授 (40369921)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ドイツ / プロイセン / 大潟村 / 内地植民 / 地域政策 / 地方財政 / 国制 / 比較史 |
研究実績の概要 |
(A)第一次大戦前・戦間期東北プロイセン農村の内地植民政策 今年度は政策施行過程の事例分析に踏み込んだ。先行研究とは異なり本研究は、地方自治体や地域の事業主体にも焦点を当て、同政策の施行過程全体を把握することにより、以下の史実を発見した。世紀転換後同政策が国家干渉の強化により変質する中で、政策の「計画性」問題が焦点化された。だが国家による「上からの計画」を求めたのは地方側であり、逆に国家は、地域の現状に即した行政の柔軟性を重視し、計画万能主義的な「壮大な計画」の要求(Leendertz, 2008)を拒んだ。ここで国家は、村の「机上の創造」や斉一的大規模化によらぬ「下からの」農村自治の創出・強化を、いわば「上から」強行せんとした。こうした逆説的な史実は、現代ドイツの「『下から』の国土計画」(山井敏章、2017年)の系譜を第一次大戦前にまで遡って検証することの重要性を改めて示している。 (B)第二次大戦後の大潟村植民 今年度は1970年代までの政策形成・施行過程を、中央・地方財政史の枠組みの中に位置付け、その特質を明らかにした。国家のその時々の経済財政計画は、植民政策に単に枠組み条件を課すだけでなく、その政策目標そのもの、さらには土地利用や住宅規格ほか住民生活の個別条件までをも斉一的に規定し、しかも随時転変させた。就中50年代に国(及び地財計画を通じ地方)の財政政策が緊縮から拡張へ、また農政が食糧増産から生産性向上へと劇的に転換された後、急遽政府の研究グループ内で「モデル農村」計画が構想され、自治問題が処理され、そして入植者の入村後に、政府は集落計画を分散型から単一大規模集中型に変更し、これも一方的に「上から」施行した。以上の事実は、(A)の政策においては、国家が当該事業を差し止める根拠ともなりうるものであり、この鮮明な対照性は、この日独比較史研究の現代的意義を明らか示している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的(A)については、①平成29年8月27日から9月15日にかけて訪独し、ベルリンのプロイセン枢密文書館において、対象時期の東北プロイセン内地植民政策に関する史料調査を実施し、同政策の根拠法、政策当局、直接的事業主体に関する未刊行史料を閲覧・収集した。なお、予算制約により滞在期間が非常に限定されたため、作業効率を考慮し、グライフスヴァルト文書館における史料調査は29年度には見送り、30年度に集中実施することとした。ただしその分、29年度にはベルリンでの史料調査を先行的に集中実施することができたため、3カ年を通じた現地史料調査計画に大きな遅延は生じていない。②定点観測的比較史研究の対象地として、旧ポンメルン州・現メクレンブルク・フォアポンメルン州内に所在し、且つ現在の地域構造における位置付けや史料の存在状況等、必要な条件を満たす植民村のピックアップも終え、すでに事例分析を進めている。③以上と並行して、対象時期の同政策を、本研究の独自の方法により、政策体系の枠組みの中で捉える作業も、ほぼ予定通りに進展した。 研究目的(B)については、28年度実施状況報告書「12. 今後の研究の推進方策等」で示したように、同年度の作業を通じて、日独の研究状況に非常に大きな方法上の落差が存在し、このままオーラルヒストリー的手法を用いれば本研究の目的と学術的独自性とが損なわれる虞のあることが判明したため、今年度から本比較研究の枠内でのこの手法の適用は見送られている。だが、それ以外の方法により入手された関係資料を、国・地方財政や農政などの政策体系の枠組みの中で分析する作業は、ほぼ予定通りに進展した。特に、これまで十分学術的に利用されたことのない県議会資料等を用いて、大潟村植民政策を同時代の国・地方の政策体系の中に位置付け直す作業は、29年度に着手されて以降大いに進展し、予想以上の成果をあげている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究目的に変更はなく、また実施計画の基本的な枠組みにも変更はない。 目的(A)では、引き続き同地域の植民村の現状を、入手可能な資料等により把握する。また30年度夏に訪独し、メクレンブルク・フォアポンメルン州立グライフスヴァルト文書館所蔵の未刊行史料を閲覧・収集する。その際、宿泊条件等に照らしてもし可能であれば、同文書館の休館日等を利用して、ベルリンのプロイセン枢密文書館をも訪問し、史料調査を実施する。そして得られた資・史料の分析により、同政策におけるライヒ、邦、地方自治体、および民間の事業主体の相互関係を把握する。なお、28年度実施状況報告書および上欄「3. 現在までの進捗状況」で示した理由により、現地でのオーラルヒストリー的手法による調査は、本研究の期間内には実施しないこととし、30年度は、本研究で得られる比較史研究の視座に立つ今後の研究での使用に耐えうる新たな調査手法を、下記(B)の作業を進めて、具体的に検討するにとどめる。 目的(B)については、(A)の研究方法により、全体的な政策枠組みの中で大潟村植民史を捉え直すため、関連する資・史料を入手・分析し、同政策における国、地方自治体、および直接的事業主体の相互関係を把握する。またその際にはむしろ、これまでの本研究の作業により明らかとなった日独間の研究状況における方法上の落差を埋めること、すなわち、我が邦の大潟村植民史研究において未だ学術的にほとんど利用されぬままになっているオーソドックスな基本的資料を、批判的方法に基づいて体系的に利用することを優先し、以て現在の日独間の研究水準における方法的落差を、本研究の計画範囲内で可能な限り埋め、今後の比較研究のための条件整備を行うこととする。 以上により、新たな定点観測的比較史研究の視座を確立するとともに、成果の学術誌への投稿等を準備する。
|