研究課題/領域番号 |
16K13295
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
山田 浩久 山形大学, 人文社会科学部, 教授 (00271461)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 土地利用 / 地価 / 衛星画像 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,東日本大震災の復興計画から外れて進行している住宅建設が,復興計画を含めた都市計画全体の進捗に及ぼす影響と近隣の自然環境に及ぼす影響を計量的に把握することにある。 宮城県石巻市を研究対象地域に設定し,米国Harris Geospatial Solutions社の衛星画像解析ソフトENVIを用いてRapidEyeの衛星画像を解析したところ,震災を挟んで市街地の外縁部において,緑地(田畑を含む)から人工物への土地利用改変が進行していることが明らかになった。これは,震災によって津波に対するリスクを強く認識した住民が,標高の高い内陸部の土地を指向するようになったためと考えられる。同様な指向は,新市街地建設を計画する行政の姿勢にも表れており,市街化区域が内陸部に向けて意図的に拡大されている。 安全な土地で生活したいという住民の希望とそれに応えようとする行政の施策によって生じた土地市場の空間的な変化は,被災地における必然的な現象と言えるが,土地探索の郊外化は地方都市の震災前からの重点課題であった市街地のコンパクト化に逆行する動きでもある。また,住民の土地需要に行政の土地供給が間に合わないのが実状であり,内陸部の土地に対する需要過多が急激な地価上昇を引き起こした。さらに,こうした状況の中で,市街化調整区域や都市計画区域外の土地に対する局地的な民間開発も観察されている。 郊外の土地を指向するようになった住民の中には,仮設住宅での生活を強いられた住民や災害危険区域の設定によって従前の土地に住めなくなった住民も含まれており,新たな土地で生活を再スタートさせるまでの許容時間は,行政が考える復興スケジュールよりも大幅に短い。宅地供給の遅れや地価の上昇によって当該自治体から流出してしまう住民も増加しており,復興後の持続的成長を困難にする大きな問題となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では,これまでに石巻市の土地利用改変に関する研究と東北地方全体の人口動態に対する統計分析を行ってきた。これらを受けて,2018年度は,石巻市市街地のより詳細な土地利用改変に関する研究と被災による人口増減が復興事業の遂行に及ぼす影響に関する研究を行った。 石巻市市街地の詳細な土地利用改変に関する研究では,分解能46-50cmのWorld View 1・2の衛星画像を使用した。ここでは,市街地の拡充に伴う自然環境の変化を明らかにする予定であったが,同解析では植物の萎凋や枯死を抽出することができず,自然環境の変化については目立った成果をあげることができなかった。これは,自然環境を変化させるような土地利用改変は局地的に行われる小規模な民間開発によるものであり,現状においては衛星画像で確認されるだけの現象には至っていないためと考えられる。そのため,本研究では緑地(田畑を含む)の減少をもって考察をまとめた。 人口増減が復興事業の遂行に及ぼす影響に関する研究では,現地でのフィールドワークを中心に,定住人口の減少を交流人口の拡大によって補填する地域連携の観点から考察をまとめた。被災自治体は交流人口の重要性を十分に認識しており,それを意識した復興計画が進められているが,震災ー復興ー観光を直線的に結びつけようとする行政の思考に反発する住民も少なくない。また,旅行業界からは既に震災以外の観光戦略を求める声も挙がっており,画一的な事業計画に歪みが生じ始めている。 自然環境に関する考察を深化させるには至らなかったものの,総体的にはおおむね順調に進展していると判断していたが,年度末の研究を総括する段階になって,機器の不具合によるデータの消失という問題が発生し,研究を完結させることが出来なくなってしまった。結果的に研究期間の延長を申請することになったため,報告者は「遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,東日本大震災の復興計画から外れて進行している住宅建設が,復興計画を含めた都市計画全体の進捗に及ぼす影響と近隣の自然環境に及ぼす影響を計量的に把握することにあり,3年間の研究期間を設定した。 研究は2018年度で終了する予定であったが,機器の不具合によるデータの消失というトラブルが発生し,2019年度まで研究を延長することになった。そのため,2019年度における作業は,まずデータの復旧である。定期的にデータのバックアップは行っていたため,本研究に関わる全てのデータ及びその解析結果を失ったわけではない。消失したのは最終的な考察に関わる部分であるため,論点は整理されている。多少時間はかかるが,総括は可能であると考えている。ただし,研究終了を1年間猶予された以上,成果をより精緻なものにするための努力を継続していきたい。 一般に,被災地では災害リスクに対する認識の向上によって生まれる土地市場の需給不均衡によって,非被災地よりも多くの人口が域外に流出する傾向にある。一方で,彼らの受け入れ先となった仙台市,いわき市などの都市では人口が増加している。2010-2015年において人口の急激な増減があった自治体の多くは被災地にあり,震災が人口増も含めた人口動態に大きな影響を及ぼしている。 東北地方においては,交流人口の拡大が各自治体の持続的成長を可能するための至上命題であることは明らかであるものの,被災地では交流人口の拡大を見越して新市街地建設を進める自治体がある一方で,移住促進に従前よりも力を入れ始めた自治体もある。各自治体はそれぞれの状況の変化に合わせて変異しており,それは行政による都市計画の微修正や住民の意識,景観の変化に現れている。データの復旧後は,新たな都市形成のあり方に関して進化論的な解釈を加えていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究は2018年度で終了する予定であったが,機器の不具合によるデータの消失というトラブルが発生し,2019年度まで研究を延長することになった。機器の不具合については,2018年度予算で解決したが,トラブルの発生によって予定していた分析を行うことができなくなり,研究の総括を年度内に発表しなかったため,分析にかかる費用と補足調査及び学会出席のための旅費を2019年度に持ち越すことになった。 (使用計画) データ復旧を含め,データの入力,整理を依頼する学生アルバイトにかかる経費と補足調査と研究成果の学会発表のための旅費に予算を使用する予定である。なお,学会発表は,2019年秋に開催される人文地理学会と日本地理学会を予定している。
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