2019年度は,研究の総括を行うと共に,国勢調査の500mメッシュデータを用いて,被災地県で生じた居住地移動の類型化から市街地の再編過程を明らかにすることによって,研究成果のさらなる深化を試みた。 岩手県の場合,被災市町村の人口が少なく,形成されていた市街地も集落規模であったために,内陸部に新市街地を創造しようとする行政側の意図が人口分布にも反映されたが,それはリアス海岸や北上高地といった地形的な条件によって,近隣に安定した住宅供給を期待できるような都市がなかったためであり,結果的には人口流出が加速化した。 宮城県の場合,仙台市の住宅ストックが被災地から流出の人口の受皿となり,他県よりもスムーズに震災後の居住地移動が落ち着いた。しかし,同市居住による生活利便性の向上は,同市への定着率を高め,前住地への帰還率を下げることは必至である。 福島県の被災市町村で発生した居住地移動は,震災と原発事故の複合災害によるものであり,異質である。避難指示による居住地移動の移動先は,住民の意思よりも彼らを受け入れるだけ収容力を持った都市に限定された。また,個人の判断による移動であっても,安全上の問題から日常生活圏内で収まることはない。そのため,観察される居住地移動は日常生活圏を越える長距離かつ集団的な移動になった。 災害によって壊滅した市街地の再編とは,リセットされた土地に対する都市施設の再配置計画であり,そこに住民が再居住することである。そこでは行政の意図と住民の行動が一致する必要があるが,生活基盤の早期安定を望む住民の短期的な行動によって,新市街地の持続可能性を高めようとする行政の長期的な意図が歪められる現象が生じている。居住地移動による人口の減少やその受皿になっている都市の宅地整備がその代表的な事例である。新市街地建設は,住民の行動を把握しながら,微修正を繰り返していかなければならない。
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