研究課題/領域番号 |
16K13302
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
久保 明教 一橋大学, 大学院社会学研究科, 准教授 (00723868)
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研究分担者 |
春日 直樹 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60142668)
近藤 和敬 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (90608572)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 存在論的転回 / シンギュラリティ / アナロジー / マナ / 名詞化 / 数量化 / 内在の哲学 / 内部観測 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、科学的・文化的実践のネットワークにおいて抽象的な観念が果たす役割を、具体的な事例分析と理論的な研究を通じて解明することである。 本年度、研究代表者の久保は、現代将棋における棋士とソフトの相互作用をめぐる事例分析に基づきながら、知能機械と人間の関わりの中で「AI(人工知能)」という観念がいかに形成され変容していくのかについて考察し、the Society for Cultural Anthropology (SCA)、科学技術社会論学会、現代人類学研究会にて研究発表を行うとともに、「AI」や「ロボット」を生みだしてきた人間と非人間の関係性をめぐる人類学的考察を展開した論文を雑誌『現代思想』にて発表した。 研究分担者の春日は、「マナ」の観念の歴史的変遷をあとづける調査を実施した。ほとんどを文字記録に頼ったが、西オーストラリア大学にて貴重な資料を収集することができた。確定できたわけではないが、「マナ」の語は少なくてもフィジーにおいて19世紀半ばより今日まで、具体的な形容詞よりも抽象的な名詞として使用されていることを確認した。 研究分担者の近藤は、「内在」をひとつのキーワードとして、特にドゥルーズとガタリの『哲学とは何か』の読解を通じて、概念の定義の問題について考察を深めた。この点について、『現代思想』誌上で論文を発表している。 代表者の久保と分担者の近藤は、16年7月と17年3月に鹿児島大学において研究会を行い、各自の研究成果を確認しながら本研究全体の進行について討議した。二回の研究会を経て、「科学的・文化的実践のネットワークにおいて抽象的な観念が果たす役割」を解明するという目的の下に具体的な事例分析と理論的な研究を接続しうる主な契機として、哲学的思考および人類学的記述における「概念」・「情動」・「内在」という三つの要素の関係性を抽出するに至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「科学的・文化的実践のネットワークにおいて抽象的な観念が果たす役割を、具体的な事例分析と理論的な研究を通じて解明する」という本研究の目的を達成するために、研究代表者および研究分担者は、各自の研究内容を進展させている。その成果は学会発表や学術論文として公表されており、研究会での討議や論文をめぐる代表者・分担者相互ないし他の研究者との議論を通じて、各自の研究内容はより根本的かつ多角的な視座を備えるに至っている。さらに、代表者と分担者は共同で複数回の研究会を行っており、各人の研究成果を接続する様々な契機を抽出するとともに、本研究全体の進展に関わる課題や有望な方向性について見解を共有するに至っている。以上の理由から、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成28年度に各自が着手した研究内容をさらに進展させる。研究代表者の久保は、「AI」をめぐる人間と非人間の関係性が、過去・現在・未来をつなぐ時間性といかなる仕方で結びついているのかに注目して現代将棋をめぐる調査と事例分析を進め、科学的・文化的実践のネットワークにおいて抽象的観念が果たす役割を「時間」という観点から検討する。 分担者の春日は、「マナ」の観念の歴史的な変遷と不変性とを、引きつづいて文字資料を中心にあとづけていく予定である。フィジー語で圧倒的な状況を示す際に併せて動員される数の観念に関しても、可能なかぎり「マナ」と関連づけながら分析を進める。 分担者の近藤は、前年度の研究会で明らかとなった、述語的観念の発生における外部性と否定性の関係について、哲学史上の知見をもとに考察を進める一方、内部観測などによる外部性についての通底する問題意識をもつ議論との積極的な接続を試みる。 さらに、代表者および分担者を中心とする研究会を定期的に開催し、(1)抽象的観念の形成過程、(2)実践における行為者と抽象的観念の相互作用、(3)実践のネットワークと制度的システムの連続的把握、という三つの論点に関して討議を進める。 討議の成果をもとに各人が研究内容をまとめ、公開研究会ないしワークショップの形で研究発表を行う。その際には、現代人類学・科学技術社会論・現代哲学において類似した主題に関心をもつ複数の研究者を発表者ないしコメンテーターとして招聘し、本研究の問題点や射程について討議を行うしかたで、本研究の中間成果を公表するとともに、最終年度に向けた研究課題の抽出を行う。
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