研究課題/領域番号 |
16K13305
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
湖中 真哉 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (30275101)
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研究分担者 |
市川 陽子 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (50269495)
ディハーン ジョナサン 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (80551738)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 民族誌 / 当事者 / 東アフリカ / 中山間地域 / 里山 / 獣害 |
研究実績の概要 |
本研究は、「当事者間による問題点共有接近法(Issue Sharing Approach between Parties)」という新たな開発人類学的民族誌作成手法の開拓に挑戦する。 平成29年度は、前年度の調査研究/実践プロジェクトの成果を検証しつつ、静岡県の中山間地域にその成果を持ち帰った。まず、民族誌や報告書ではなく、当事者としてのパースペクティブを反映した成果物(『マサイ目線の動物図鑑』)を年度内に完成させることができた。また、その英語版"Field Guide Book seen from the Maasai Eyes"も完成させることができた。 平成29年度は、上記成果を参照しつつ、静岡県牧ノ原市を対象として、イノシシによる農作物被害の増加と耕作放棄地の関係についての調査研究を静岡県立大学学生とともに実施した。現在牧之原市ではイノシシによる農作物被害が深刻化しており、特にここ数年でイノシシの捕獲頭数が急増している。本研究では、たんなる研究者側の興味関心に応じた情報収集ではなく、地域住民にとって切実な課題を「当事者」として共有する方法でアプローチした。地域住民に対するインタビュー情報を地図に書き込むマッピング調査、被害現場の踏査、ドローンによる空撮画像の撮影を積み重ねた結果、耕作放棄地を介してイノシシが農地に侵入する経路を解明することができた。また、その調査研究成果に基づいて牧ノ原市に対して政策提言を行った。本研究成果は、静岡県立大学平成29年度 学生による地域志向研究・ 地域貢献プロジェクト成果発表会において参加学生により報告され、「地域みらい研究賞」を受賞した。 本研究の現段階での研究成果は、10月27日に東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所のフィールドサイエンス研究企画センター2017年度第1回フィールドサイエンス・コロキアムにおいて口頭発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると判断される理由は以下の通りである。 1)当初の計画通り、平成28年度に実施したケニアにおける調査研究成果を、当事者としてのパースペクティブを反映した成果物としてまとめることができた。また、その英語版も作成することができた。 2)当初の計画通り、静岡県牧ノ原市を対象として、イノシシによる農作物被害の増加と耕作放棄地の関係についての調査研究を静岡県立大学学生とともに実施することができた。たんなる研究者側の興味関心に応じた情報収集ではなく、地域住民にとって切実な課題を「当事者」として共有する方法でアプローチすることができた。また、その成果から問題点の解決法を提案し、行政に対して政策提言することができた。また、その研究の質の高さや地域への貢献度が審査員から高く評価され、学生の報告が「地域みらい研究賞」を受賞した。 3)本研究の現段階での研究成果は、10月27日に東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所のフィールドサイエンス研究企画センター2017年度第1回フィールドサイエンス・コロキアムにおいて口頭発表することができた。フィールド・サイエンスには予測不可能で開かれた態度が不可欠であり、研究、調査、支援の在り方自体のレジリエンスを考えねばならないことを指摘することができた。また、本研究では、明確な目的による首尾一貫したプロジェクト運営ではなく、「試行錯誤の積み重ね」によるプロジェクトの運営を試みていることを紹介することができた。 4)教育工学の立場からの静岡県立大学学生へのインタビューを継続し、当事者間の問題点共有接近法が学生の教育やキャリアデザインにも効果があるという見通しが得られつつある。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度、29年度を通じて、当事者間の問題点共有接近法を試みることによって新たに明らかになった点は、この方法による調査研究においては、明確な目的による首尾一貫したプロジェクト運営ではなく、「試行錯誤の積み重ね」によるプロジェクトの運営が必要であることであった。当事者のニーズは決して一定の固定したものではなく、調査者と地域住民の間の関係性としてつねに変動しており、この意味で両者の間にその都度生成するものである。また、調査者側も、様々なニーズに応じた調査手法をその都度試みることによって、新たな経験の蓄積を積み重ねることが可能になり、そのフィードバックを通じて新たな現実を発見することが可能になる。 このような見通しのもとに、平成30年度は、静岡県牧ノ原市において実施した調査研究成果のアイディアや成果の蓄積をフィードバックしつつ、再びケニアのマサイマラ地区に戻って、調査研究、支援活動を実施する予定である。そして、3年間の研究成果を総括し、研究成果のとりまとめを行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 研究計画調書より大幅な減額となったため、最終年度に計画通りケニア・マサイマラでの調査・活動計画を実施するための十分な資金が得られなくなった。そこで、他の計画分を可能な限り縮減し、最終年度に、研究計画調書に計画した通り、再度ケニア・マサイマラでの調査・活動を実施する費用を捻出するため。
(使用計画) 最終年度のケニア・マサイマラでの調査・活動計画に使用する予定である。
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