研究課題/領域番号 |
16K13305
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
湖中 真哉 静岡県立大学, 国際関係学部, 教授 (30275101)
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研究分担者 |
市川 陽子 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (50269495)
ディハーン ジョナサン 静岡県立大学, 国際関係学部, 准教授 (80551738)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 民族誌 / 当事者 / 東アフリカ / 中山間地域 / 里山 / 獣害 / エイジェンシー / プロジェクト |
研究実績の概要 |
本研究は、「当事者間による問題点共有接近法(Issue Sharing Approach between Parties)」という新たな開発人類的民族誌作成手法の開拓に挑戦する。 研究代表者は、予定通り、これまでの過去2年度間の調査研究成果の概要を、人類学の調査研究の方法論として練り直し、新たな手法としてモデル化した上で研究成果の取りまとめと、公表に向けた作業を進めた。その結果、平成30年度内に日本文化人類学会誌『文化人類学』に論考「グローバルな当事者間のニーズ共有接近法─ケニアのナロック県と日本の静岡県を繋ぐ人類学的教育実践の事例から」を投稿し、査読を受けて2019年1月2日に採択が決定した。論考では、これまでの試行の結果、人類学的教育プロジェクトの蓄積が新しいプロジェクトを生み出し、このプロジェクト自体がひとつのエージェントとなっていったことを論述した。グローバルなニーズ共有接近法という方法論においては、従来人類学者により想定されてきたように民族誌家と地域住民が協働するのではなく、混成的なプロジェクト自体がエージェントとなって民族誌家と地域住民の協働を駆動することがみられた。この論考では、そうした特徴を「混成的なプロジェクト・エイジェンシー」としてモデル化した。また、こうした協働の在り方は、調査者と被調査者、支援者と被支援者といった非対称的二分法を前提としたフィールドワークと民族誌の在り方を融解させ、対称性を基調とする人類学的教育の可能性を拓くひとつの手がかりとなり得ることを指摘した。 教育工学、教育コミュニケーション学の立場からは、ディハーンが課題共有による相互の学び合いのプロセスとして本プロジェクトの評価を実施する作業を行い草稿を完成させた。食品学の立場からは、市川が静岡県伊豆市で研究を行い、駆除対象の野生ジカは、捕獲方法で食肉特性が異なることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね順調に進展していると判断される理由は以下の通りである。 おもな研究成果については、日本文化人類学会誌『文化人類学』に論考「グローバルな当事者間のニーズ共有接近法─ケニアのナロック県と日本の静岡県を繋ぐ人類学的教育実践の事例から」を投稿し、査読を受けて採択が決定した。まもなく同誌に掲載される見通しのため、これまでの研究成果を順調に公表することができたと判断される。 とりわけ、たんなる人類学的教育事例報告に留まらず、「混成的なプロジェクト・エイジェンシー」、「民族誌的リーフレット」という2つのキーワードをもとに、人類学的教育実践についてのモデル化に成功したことは、順調な研究成果公開と言って良いと判断される。また、研究分担者のディハーンと市川もそれぞれ研究成果をとりまとめ、市川は『日本畜産学会報』に査読付き論文を掲載した。 平成30年度は、これまでの調査研究/実践プロジェクトの成果を総括した上で、再び静岡県住民側がケニアの ナロック県オルケリ等のサバンナ地域を訪問し、静岡県とアフリカの当事者同士によるプロジェクトを継続実施する予定であった。その計画通り、平成30年度は、3月2日から11日まで学生とともに、ケニアで海外調査活動を実施すべく準備を整えていた。しかし、1月15日にケニアの首都ナイロビでテロ事件が発生し21人が死亡した。また、26日にも爆弾事件が発生し2人が負傷した。そのため安全上の配慮から3月の渡航を見合わせるべきだとの判断に至り、補助事業期間延長承認申請書を提出して受理された。 このように計画変更が生じたが、それは、調査対象地の安全状況悪化という外部要因によるものであり、研究進捗状況の遅れによるものではない。研究計画全体としては、日本文化人類学会学会誌への採択を通じて、当初目的としていた研究目的を既にほぼ達成できたと判断される。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、補助事業期間延長が承認されたため、これまでの調査研究/実践プロジェクトの成果を総括した上で、再び静岡県住民側がケニアのナロック県オルケリ等のサバンナ地域を訪問し、静岡県とアフリカの当事者同士によるプロジェクトを継続実施する予定である。時期は2019年8月ないし2020年3月を予定している。そのための準備は既にある程度整っている。 とくに平成30年度は、2018年12月4日に、獣害対策用品を製造している企業2社の代表者の方をゲストとして招聘して、静岡県立大学でこれまでのプロジェクトの活動成果報告会を開催し、今後の企業との協力について議論をすることができた。今年度は、この活動成果報告会の成果を活かしながら、大学と地域住民の協力関係のみならず、企業との協力関係も模索したいと考えている。 口頭発表による研究成果の公開については、2019年6月1日・2日に東北大学で開催される日本文化人類学会第53回研究大会において、研究代表者が「グローバルな当事者間のニーズ共有接近法-ケニアのナロック県と日本の静岡県を繋ぐ人類学的教育実践の事例から」と題する研究報告を行う予定である。 また、教育工学の立場からの、本プロジェクトの評価研究については、既に草稿が完成しており、研究代表者が草稿のレビューを実施し、修正を重ねている段階にある。研究成果の公開に向けて、引き続き、完成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、これまでの調査研究/実践プロジェクトの成果を総括した上で、再び静岡県住民側がケニアのナロック県オルケリ等のサバンナ地域を訪問し、静岡県とアフリカの当事者同士によるプロジェクトを継続実施する予定であった。その計画通り、平成30年度は、3月2日から11日まで学生とともに、ケニアで海外調査活動を実施すべく準備を整えていた。しかし、1月15日にケニアの首都ナイロビでテロ事件が発生し21人が死亡した。また、26日にも爆弾事件が発生し2人が負傷した。そのため安全上の配慮から3月の渡航を見合わせるべきだとの判断に至り、補助事業期間延長承認申請書を提出して受理された。 2019年度は、補助事業期間延長が承認されたため、これまでの調査研究/実践プロジェクトの成果を総括した上で、再び静岡県住民側がケニアのナロック県オルケリ等のサバンナ地域を訪問し、静岡県とアフリカの当事者同士によるプロジェクトを継続実施する予定である。時期は2019年8月ないし2020年3月を予定している。
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