研究課題/領域番号 |
16K13311
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 晃 北海道大学, 法学研究科, 教授 (90164813)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 解釈的法理論 / 解釈的循環 / 相互作用的理性 / 法の構造化 / 法システム / ドゥオーキン |
研究実績の概要 |
今年度は、昨年度のR・ドゥオーキンの解釈主義的法理論の意義の再検討を踏まえて、諸法解釈間の「理論的不一致」がいかに克服され、またそれによりいかに法が活性化されるかという問題を検討した。そこでは、特に「相互作用的理性」(interactive reason)の働きを解明して、法の理論的不一致がより一貫した法の理解へともたらされる認識的通路を明らかにした。相互作用的理性は、いわゆる実践理性のより多面的な働きを明確化するものであり、その構えと価値的協働、そして新たな統合という段階を踏んで、従前の対立的な法の有り方をより一貫した法の有り方へと転成させる思考動因として機能するものである。その一方で、今年度はまた、解釈的循環の新たな社会構成的機能についても検討を加えた。相互作用的理性は人間における実践的判断の様式であるが、それはより広く人間の時間的で動的な存在様態における「解釈的循環」(hermeneutic circle)の内で働いており、法的空間を拡大してゆく働きを有している。加えてさらに、社会はそのような動態を抱えた人間から成るグループやコミュニティにおいて秩序がいっそう動態的に変化しているので、この解釈的循環は社会のそこかしこで複合的に働き、そのことによってまた社会を構成する動因として機能してゆく。さらにここからは、以上のような二つの契機によって法が動態的に展開されることにおいて、法のシステム・レベルでの動態的変容も主体的な観点から説明されることになる。そこで重要なのは、システムの構造でも機能でもなく、システムの「構制化(structuration)」というマクロ・メゾ・ミクロの各次元での螺旋的でループ的なプロセスである。この点が特に、前年度残された課題であるN・ルーマンの法システム論の再検討の焦点として浮かび上がってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度はまず、動態媒質的法概念の主体的な契機として重要となると思われる、人間の相互作用的理性の機序を明らかにし、またさらにその基盤となっている人間と社会の解釈的循環プロセスの意義を明確化することができたが、これによって動態媒質的法概念の理論的基礎を固めることができた。また、加えて、このことにより、前年度において残された課題となった、R・ドゥオーキンと同様に法概念に係る流動性を評価する、N・ルーマンのオートポイエーティックな法システム論も、ドゥオーキン理論から展開されることになった相互作用的理性論や社会構成的解釈循環論を基盤とすることによってその意義を見通すことができ、またその際には前年度において必ずしもその意義が明確ではなかったL・ヴェヌッティの構成的・創造的な解釈・翻訳理論の意義も明確になった。もっとも、これらの解明点に係る社会科学的な見地からの補強は未だ必ずしも十分とは言えない面が残っている。特に社会学および政治学的見地からの法の慣習的機能や権威的構造の問題が上記の動態媒質的法概念にいかに関わっているかということのさらなる解明は、引き続き試みなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、上記進捗状況において記したように、法の流動性の把握を相互作用的理性を包含する社会構成的解釈的循環という理論的視角を深める一方で、法の流動性をめぐるトランスレーション・スタディーズやその他関連する種々の社会科学的探求の成果をさらに取り入れて、この流動性とそこにおける人間的営為の在りようの規範性や権力性をさらに証示することに力を注ぎたい。この場合には、おそらく社会秩序における翻訳的適応の機序に係る社会的認識論や集団力学の態様と機能的特質に係る社会学的秩序論などが重要になるだろうという見通しを持っている。なお、来年度は九州大学において国際比較法学会が開催され(2018年7月)、法伝統論の大家である故H・グレン追悼ワークショップに招聘されているので、その機会を利用して上記の議論の精査を考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、今年度に予定していた海外調査・意見交換(シンガポール)が、研究代表者の公務日程の都合により、果たせなかったことによる。今後の使用計画に関しては、来年度は、今年度達成できなかった海外調査・意見交換の予定を早めに定めるようにして、その機会を確保することで、予算の効果的な使用を目指したい。
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