研究実績として、まず、EU競争法では、関連市場で事業活動を行っていない事業者により誘引された共同行為について、ファシリテーター型共同行為、ハブ・アンド・スポーク型共同行為規制の判例・学説を中心に検討した。ファシリテーター型共同行為の先例であるAC-Treuhand事件欧州司法裁判所判決(2015年)では、カルテルに参加するファシリテーターに対して、カルテルが行われている関連市場で事業活動をしていなかったとしても(1)共通の目的を追求する全体の計画、(2)その計画に対する事業者の意図的な寄与、(3)他の参加者の違反行為を知っていること、または合理的に当該行為が行われることを予見し、リスクを取る用意があればEU機能条約101条1項が適用されることを明らかにした。 また、ハブ・アンド・スポーク型共同行為規制の先例となるEturas事件欧州司法裁判所判決(2016年)によれば、関連市場では事業活動を行っていない旅行予約システムのサービスの提供業者であるEturasについても、価格協定のメッセージをコンピュータシステム上で送れば101条1項上の協調行為の法的責任を問うことが可能となっていることを明らかにした。 次に、我が国では、独占禁止法における不当な取引制限として、「意思の連絡」あるいは「合意」がありその態様としての「相互拘束」または「共同遂行」がある場合に不当な取引制限として違法となるところ、多摩談合最高裁判決(2012年)は、相互拘束要件の解釈を緩和し、取引段階の異なる事業者を含む、いわゆる「縦のカルテル」についても相互拘束で読み込む余地を認めたとする理解も可能である。しかし、新聞販路協定事件判決(1953年)の「相互拘束」の解釈について明確な判例変更がなされた訳ではなく、「縦のカルテル」は依然として要件解釈・エンフォースメント上の課題を抱えていることを明らかにした。
|