研究課題/領域番号 |
16K13324
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
丸山 雅夫 南山大学, 法務研究科, 教授 (50140538)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 少年犯罪 / 少年保護手続 / 責任能力鑑定 / 情状鑑定 / 心理アセスメント |
研究実績の概要 |
本研究は、研究代表者および2名の連携研究者を中心として、15名程度の研究協力者とともに遂行されるものとして計画した。本年度は、2年間の研究計画の初年度であることから、少年保護事件における責任能力鑑定と情状鑑定、審理アセスメントのあり方を中心として、基礎的な知見の獲得に務めた。全体としては、基盤研究(A)の助成を受けて開催している「少年司法研究会」との連携のもとに研究会を開催するとともに、国内の少年処遇施設を参観したうえで、処遇現場の担当者との意見交換を行い、実務動向に配慮して遂行した。具体的には、以下の通りである。 個人研究としては、研究代表者および連携研究者が個別的に理論的観点ないしは実務的観点からの研究を行った。また、その結果を踏まえて、「少年司法研究会」と合同開催の研究会において報告(ゲスト・スピーカーからの専門的知識の提供を含む)をした後に参加者全員(研究協力者を含む)で議論を行い、知見を深めるとともに今後(次年度を含む)の研究活動のあり方についても検討した。本申請のテーマを中心とする研究会の開催は2回であり、そこでの知見と議論を前提として、参加者個人の責任において、すでにいくつかの研究論文として公刊されている 申請時に予定していた国内外の少年処遇施設の参観については、助成金額との関係で国外での視察は断念して、国内の施設参観にとどめることにした。この参観も「少年司法研究会」と合同で行い、東広島市所在の広島少年院(男子少年院)、貴船原少女苑(女子少年院)、広島学園(児童自立支援施設)を訪問して参観するとともに、処遇現場の職員と意見交換を行った。そこでの知見によれば、近時、発達障害を中心とする精神的問題を有する児童・少年ないしは被虐待経験を有する児童・少年の数が顕著に増加しているとのことであり、次年度の研究の方向性を検討する際の有益な情報を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、申請書において明らかにしていたように、本年度が最終年度となる基盤研究(A)にもとづく「少年司法研究会」との連携によって遂行する形で計画されたものである。したがって、本研究単独での進捗状況を厳密に明示することは困難であるが、本研究を中心として推進された研究の進捗状況としては、一応、次のようにまとめることができる。 本計画の基礎となっている個人による研究としては、研究協力者を含めた参加者がそれぞれの方針で自由に研究を進め、すでに研究論文として公刊されているものも多い。また、それらを前提として、本研究のテーマを中心とした「少年司法研究会」を2回にわたって開催し、ゲスト・スピーカーによる専門的知識の提供を含めて活発な議論が行われている。さらに、基盤研究(A)のテーマを中心とする研究会においても、関連論点として、本研究の内容に関わる議論が頻繁に行われている。 施設参観については、国外少年処遇施設の参観は、助成金額との関係で、本研究としては実行することができなかった。ただ、基盤研究(A)にもとづいて実施したカナダのブリティッシュ・コロンビア州における施設参観は、少年司法研究会のコア・メンバーによるものであり、そこでの議論においては本研究のテーマの多くが扱われている。他方、国内の少年処遇施設参観は、本研究の一環として実施したものであり、予想以上に多くの有益な知見を得ることになった。したがって、施設参観全体としては、実質的に、当初に予定していた内容を達成し得たものと判断している。 研究費全体としては、相対的に、次年度に繰り越す部分が多くなっている。ただ、これは、本研究と連携している「少年司法研究会」の原資となっている基盤研究(A)が本年度で終了することから、次年度での実効的な研究遂行を予定してのことである。したがって、全体として、本研究は、おおむね順調に進んでいると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
一年間連携して遂行していた基盤研究(A)にもとづく「少年司法研究会」が本年度で一応の完成を迎えるため、次年度は、本課題研究が単独で活動を行うことになる。ただ、申請時に示していたように、「少年司法研究会」の参加者の多くから本研究への協力の確約が取れているし、本研究の内容も「少年司法研究会」の研究と重なる部分が大きい。したがって、次年度も、研究組織としては「少年司法研究会」を引き継いでいくことにする。また、責任能力鑑定そのものについては、相当に研究を深化させることができているので、次年度は、それを前提とした処遇プログラムを念頭において、次のような研究活動を予定している。 個人による文献研究等については、本年度と同様に、研究参加者個人の責任において遂行し、一定の成果が得られた時点で、適宜、研究論文等として公刊していく。また、研究協力者を含めた参加者全員で知見を共有するとともに、議論を行うための場として「少年司法研究会」を3回程度開催する。2回までは、従来通りの形式(ゲスト・スピーカーによる専門的知識の提供を含む報告と、それにもとづく議論と検討)で実施し、3回目は、基盤研究(A)での成果をも含めて、本研究のまとめを行うものとする。 少年処遇施設の参観については、助成金の執行状況に大きく依存するが、できれば、国外での施設参観を行いたい。それが困難であれば、国内での施設参観ということになるが、可能な限り、精神医学的ないしは心理学的アプローチによる処遇を意識的に実施している施設を対象とする。また、ある意味で古典的な対応をしている「北海道家庭学校」等、児童自立支援施設を参観して、精神的な問題を抱える児童や被虐待体験を有する児童の実情を把握するとともに、固有の処遇プログラムのあり方を考えたい。 以上の活動の後、基盤研究(A)の知見をも参考にしながら、報告書の形で本研究の成果をまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究課題の実質において重複部分が相当に多く、研究参加者(研究協力者を含む)のほとんどが両課題で重複していた、基盤研究(A)による「少年司法研究会」と連携して研究全体を行ったことから、それぞれの助成金の使用について、明確に区分した執行が困難であったことが大きな要因である。特に、海外の少年処遇施設の参観については、両研究にまたがる内容を対象として行ったことから、参加者すべての所要経費を基盤研究(A)から支出することとし、本研究課題からの支出が相対的に減少することになった。また、研究会の開催についても、両課題を明確に区別した形での開催は事実上困難な状況であり、それぞれの経費を案分する形で執行したため、本課題での執行が相対的に減少している。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、内容的に重なり合いの多い基盤研究(A)が本年度で終了するため、本課題に特化した形で研究費が執行されることになる。このことを前提として、3回程度の研究会を開催するとともに、国内の少年処遇施設(特に、精神的問題や被虐待経験を持つ児童・少年を収容して、精神的サポートを中心とした処遇プログラムを実践している施設)の参観を実施する。他方、申請時に予定していた国外の少年処遇施設の参観については、研究費全体が減額されたことから、実施そのものを諦めるか、旅費や宿泊費が比較的安価な地域を対象として、少人数で実施することを考えている。これらによって、執行することができなかった本年度分の研究費と合わせて、効率的かつ実効的な研究活動となることが明らかである。
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