本年度は、前年度の研究結果を受けて、次の四つの課題を設定し、これを検討した。第一、我が国の和解論の基礎となった、一九世紀フランスの和解論の全体像を示すこと。第二、梅謙次郎の仏文和解論の研究。第三、旧民法から明治民法典に至る、和解関連規定の成立史を明らかにすること。第四、民法典制定から現在に至るまでの判例学説の展開、および、その後の立法による変化を明らかにすること。 具体的には、和解の定義、性質、能力と権限、目的物、効力、解釈、無効取消といった、和解に関するさまざまな議論(和解論)を、一九世紀フランスおよび明治期以降の日本のそれぞれにつき検討した。 その結果、梅謙次郎の和解論が、一九世紀フランスの和解論のなかで有していた位置を客観的に計測することができた。 また、現在の我が国の和解論には、議論が欠けている箇所や、誤解のある箇所が数多くあることが明らかとなった。たとえば、和解の要素に関する議論、和解権限に関する議論、確定効の概念、民法第六九六条の解釈、和解と錯誤をめぐる議論などは、いずれも修正の余地があり、新たな解釈論を提示することができた。また、和解の目的物に関する議論として、特に、犯罪および不法行為と和解についても、新たな知見を得ることができた。 これらの研究成果は、『我が国における和解論の生成と展開 ー梅謙次郎の和解論を中心として(仮)』という研究書において、近く公表する予定である。
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