研究課題/領域番号 |
16K13329
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
吉田 克己 早稲田大学, 法学学術院(法務研究科・法務教育研究センター), 教授(任期付) (20013021)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 人の法 / 人格的利益 / 人格権 / プライバシー / 私的領域 / 身体 / 都市環境 / 民法の体系 |
研究実績の概要 |
3年計画の中間年度であり、資料収集を行いつつ、一定の論点については、論文や学会報告等の形での成果公表も行った。 ①総論的検討については、水林彪教授の古稀記念論集に「『人の法』の構築--フランス民法学からの示唆」と題する論稿を寄稿することができた(近刊予定)。日本における「人の法」の問題意識の展開を整理した上で、フランスの体系書・教科書における「人の法」体系の変遷をフォローし、日本法における示唆を得ようとするものである。また、同書に、「社会構成原理としてのcivilと法の基本思想としてのcivil」を論じる「序論」も寄稿することができた。 ②各論的検討としては、「民法(債権法)改正と『人』概念の再定義」、「消費者法と『人の法』」を論じる論稿を公表することができたほか、フランス法の状況を踏まえながら婚内子と婚外子の平等化に関する日本法の問題点を探る論稿を執筆することができた(近刊予定)。父子関係の効果もさることながら、父子関係定立の局面に重点を置いた考察を行った。日仏の差異が顕著であり、日本法の問題性が大きい領域だからである。また、人口減少社会の下での都市環境問題についても、一定の論稿を公表することができた。学会報告としては、相続法の今後のありかたを論じる総論的報告を行う機会があった。 ③フランスに赴いて、関係研究者との意見交換、議論を行った。具体的には、Mustapha Mekki(パリ第13大学)、Jean-Christophe Saint-Pau(ボルドー大学)、Dominique Fenouillet(パリ第1大学)、Anne Debet(パリ第5大学)、Norbert Foulquier(パリ第1大学)、Olivier Herrnberger(公証人)の諸氏との間で意見交換をすることができた。とりわけ人格権論の現代的展開に関して大きな理論的収穫があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
総論的課題については、水林古稀論集寄稿論文である「『人の法』の構築--フランス民法学からの示唆」の執筆・公刊を軸に、着実に課題の検討に取り組むことができている。同論文は、フランス民法学から示唆を受けつつ、「人の法」の体系の検討に取り組むものである。主体論については、ある意味では当然のことであるが、財の法の主体の問題もここに入ってくること、他方で、人の法固有の主体論については、これまでの民法学が必ずしも十分に意識していない多くの論点があることに気づいたことが収穫である。また、この検討の中で、財の法を含めた民法全体の体系についても、新たな構想を提示することができるのではないかという感触も得ている。 各論的課題については、一定の論文を公表することができた。未公刊であるが、婚内子・婚外子の平等化に関して父子関係の定立を論じる論稿を執筆することができたことも、重要な収穫だと感じている。日本では必ずしも十分に知られていないフランス法における嫡出推定制度の現在のあり方を明らかにすることができたからである。都市環境についても、空き家問題や所有者不明土地問題に関して先駆的な検討を行うことができている。フランスとの理論交流も順調である。これまで研究交流がある研究者に加えて、新たに何人かのこれまで十分な交流がなかった研究者と交流を持つこともできた(たとえば、Jean-Christophe Saint-Pau 教授、Dominique Fenouillet教授。両教授とも、人格権、「人の法」のフランスにおける第一人者であり、今後の理論交流も期待できる)。 このように、全体として、研究計画は、おおむね順調に進行していると評価してよい。
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今後の研究の推進方策 |
研究遂行上の問題点は特になく、基本的な点での研究計画の変更はない。3年計画の最終年度であり、次のような基本計画で研究活動を実施する。 まず、総論的理論活動については、水林古稀論集寄稿論文を完成させ、公表することができたので、この論文を踏まえつつ、「人の法」の体系をさらに具体的に検討する。それは、財の法をも含めた民法全体の体系論に波及していくはずである。 各論的検討においては、人格権論に本格的に取り組む。身体論や自己決定権についてはすでに検討を開始しているが、それらを含みつつ、より一般的な人格権の法構造論に取り組み、論文執筆を目指す。また、都市環境問題についても検討を行う。当初は、景観権を中心に取り上げる予定であったが、都市縮小時代の都市と都市環境という問題に重点をシフトしている。また、所有者不明土地問題にも取り組みたい。この問題は、「人の法」の観点からも多くの検討すべき問題を含んでいる。フランスとの理論交流については、かねて交流を積み重ねているMustapha Mekki教授と新しい技術に関するWSを開催する計画があるので(2018年9月、於早稲田大学)、これを成功させたい
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次年度使用額が生じた理由 |
文献購入計画に若干の遅れが生じた。次年度で予算を執行することにについて、特に問題はない。
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