本年度並びに研究期間全体を通じての最大の研究成果として、2020年3月に刊行した『麻薬の世紀―ドイツと東アジア 一八九八‐一九五〇』(東京大学出版会、2020年)を挙げることができる。 本書は、19世紀末から第二次世界大戦後までの約半世紀にわたるドイツと日本と「満洲国」を中心とした東アジアとの麻薬をめぐる関係を実証的に明らかにしたものである。とりわけ、ナチス・ドイツと日本及び「満洲国」間の阿片やコカを始めとする麻薬貿易が第二次世界大戦中行われていたことを未刊行史料に基づいて詳細に明らかにした点が本研究の最大の意義であるといえる。 また、本書はナチス・ドイツが日本や「満洲国」から直接購入した阿片やコカの第二次世界大戦後の行方を未刊行史料に基づいて、詳細に跡付けた点も特長である。その際、神戸の保存倉庫に保管されていたナチス・ドイツ保有の阿片、すなわち「ナチ阿片」が最終的にGHQに渡り、それを日本の通商産業省に購入させていた事実が明らかになった。しかもその売り上げ金が、GHQの総司令官であるD・マッカーサーが管理するナショナル・シティ・バンク・オブ・ニューヨークに振り込まれていたことを史料によって明らかにした点も本書の特長である。 しかも奉天に保管されていた「ナチ阿片」の行方も実証的に明らかにしており、それが関東軍に売り渡されたことを史料によって解明した。さらに関東軍の阿片の行方を追うなかで、それを含む中国出自の阿片が日本においてGHQによって押収された史実も明らかになった。その阿片が、最終的に日華賠償問題において、中華民国側に移管され、それを日本が中間賠償として約1億円で買い取った史実も明らかにした。 以上が研究実績の概要であるが、20世紀前半に於けるドイツを始めとした欧米と東アジアとの関係について、これまで内外の研究においては全く明らかにされてこなかったものである。
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