本年度は、主として、次の3つの点から研究を進めた。第一に、OWIが行ったアジア言語によるラジオ放送の実態解明に向けた論文(「アジア太平洋地域における戦時情報局(OWI)-朝鮮語放送の実態解明に向けた基礎的分析」『政経研究』2017年9月)を執筆したことである。同論文は、①OWIの組織体制について、アジア太平洋地域でのプロパガンダ活動に着目して明らかにし、②OWIラジオが、アジア太平洋地域でどのように行われたのかを解明し、③OWI朝鮮語放送が、いつ、どのように開始され、いかに行われていたのかを分析するものであった。 第二に、収集済みの朝鮮語および中国語によるOWIラジオ放送番組の録音記録について整理を進めた。だが、音質の悪いものも見られため、完全なデータベース化は完成にいたっておらず、継続して作業を続けているところである。 第三に、アメリカ国立公文書館で番組台本資料の確認を行ったほか、OWIに関する文書資料のさらなる調査を進めたことである。番組台本は、すでに収集の目途が立っている。OWI文書の追加調査では、OWIが活動を停止し、その機能が国務省に引き継がれていく様相を示す資料と、番組制作過程を示す資料の発見・収集に力を注いだ。 以上のとおり、本年度は、論文執筆、録音記録の整理、文書資料の追加調査という3つの軸で研究を進めた。なお、本年度の成果の一部は、先述した論文のほか、共著書「冷戦アジアの米軍の心理戦と拠点としての沖縄」『熱戦のなかの冷戦、冷戦のなかの熱戦-冷戦アジアの思想心理戦』(韓国語、2018年6月、チンインジン(ソウル)327-360頁)のほか、口頭発表「戦後東アジアの新聞学/マスコミ研究の系譜学-冷戦とアメリカの視点から」(日本マスコミュニケーション学会メディア史研究部会、2017年10月28日)に含まれている。
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