研究課題/領域番号 |
16K13344
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小野 裕一 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (00700030)
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研究分担者 |
江川 新一 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (00270679)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 災害統計 / 国際規範 / 規範起業家 / 仙台防災枠組 / 保健セクター / 国連開発計画 / インドネシア / フィリピン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、保健セクターにおける「災害統計の整備」を事例として、国際規範の成立と国内的受容の新仮説の構築を、3年計画で試みるものである。研究の2年目にあたる平成29年度には、規範の国内的受容の実験国としてフィリピンの事例研究を主に実施した。 前年度に実施したインドネシアの事例研究との比較のため、規範起業家と規範受入国政府の関係について、国連開発計画(UNDP)とフィリピン国政府の関係に着目した。暫定的ではあるものの結論を先取りして記述するならば、本報告の執筆時点では、規範起業家としてのUNDPの役割は限定的である、と考えることができる。 本報告の執筆時点で、フィリピンでは災害対策の法制度のうち、最上位の法律に相当する「災害リスク削減・管理法(共和国法Republic Act第10121号:以下「RA10121」と略記)の改正が議論されている。RA10121は、フィリピン国政府の関係省庁の役割を規定しており、原則的にはその規定が明確に定まらない限り、どの省庁が災害統計の収集や管理などを行うのか、という検討に進むことができない。特に、関係省庁により構成される「国家災害リスク削減・管理評議会」の事務局である市民防衛局(以下「OCD」と略記)の立場をめぐり、独立した省庁に格上げする(現時点でOCDは国防省傘下の部局である)という案や、自然災害だけではなく人為災害も管轄するという案、既往のフィリピン気象天文庁やフィリピン火山地震研究所との統合などといった議論が進んでいる。こうしたフィリピン国内の法制度の整備にかかる過程に、UNDPとして関与することは困難である。さらにドゥテルテ政権が政府外からの干渉や介入と考え得る行動に対してきわめて敏感であることから、UNDPとしては尚更慎重に行動をせざるを得ないというのが実情であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の2年目に予定をしていた実験国の調査について、フィリピンの事例に集中的に取り組み、おおむね計画どおりに進捗させることができた。特に、規範起業家と規範受入国政府の関係について、インドネシア(先進的な事例)とフィリピンを比較することで、規範起業家が制約される国内的要因について検討をすることができた点が重要であった。 もう1つ実験国として想定をしていたカンボジアについては、政情が不安定であり、その中で上院議員選挙が実施されるなど、本研究の調査への影響に注意する必要があった。また、2018年7月には下院議会選挙(総選挙)が実施予定であることが判明した。こうした状況は、本研究の申請当時には予見することが難しかったものの、実験国としてカンボジアを採用することの妥当性及び研究遂行の実行可能性について注意深く検討を行うことができ、事例選択の軌道修正を行うことができたという意味で有意義であった。 以上より、研究計画の2年目としての進捗状況は「おおむね順調」であったと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度にあたる平成30年度は、インドネシア、フィリピンに続く3番目の事例国を選定し、規範の国内的受容の過程を明らかにする。当初は、3番目の事例国としてカンボジアを想定していたが、同国の政情を考慮し、カンボジア以外の国を検討する必要が生じている。 しかし、これにより研究が停止するとは考えていない。研究計画の申請時に、規範起業家としてのUNDPの優先対応国はカンボジア以外にも、ミャンマー、スリランカ、モルディブが想定されていた。これらの国々に加えて、2017年からネパールが優先対応国として追加された。政情を含めた実行可能性を考慮し、これらの国々の中から3番目の事例国を選定する。 2018年7月には、モンゴルでアジア防災閣僚級会議が開催予定である。こうした閣僚級の会議では各国の実務者が一堂に会するうえに、UNDPや国連防災戦略事務局や世界銀行などの国際機関も出席する。そのため、情報収集を効率的に行うことができ、限られた予算を有効に活用することが可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
情報収集のための旅費として使用したが、端数が生じたため繰り越した。
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