研究課題/領域番号 |
16K13345
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
上杉 勇司 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (20403610)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 南洋群島 / 委任統治 / 戦後責任 |
研究実績の概要 |
本年度の実績としては、まず、4月にグアムとミクロネシア(ポンペイ、チューク)における現地調査を実施した。次に7月に開催された日本平和学会春季研究大会に参加し、「植民地主義」に関する研究(特に戦争責任に関わる論点)の研究動向を把握する機会を得た。8月には、沖縄県に出張し、南洋群島に渡った移民に関する文献調査を県内の図書館等にて実施した。また、11月には、これまでの研究成果を取りまとめ、日本平和学会冬季研究大会(自由論題部会3)にて「南洋群島における日本の委任統治と戦災と戦後責任」と題して報告した。12月には、沖縄県からの南洋移民についての追加調査を実施し、とりわけ多数の移民を輩出した渡嘉敷村の歴史民族資料館や教育委員会にて資料収集等を実施した。そして、3月には旧南洋庁の支庁が置かれていたミクロネシア(ヤップ)とグアムでの現地調査を実施した。これにより、沖縄、グアム、サイパン、ハワイ、パラオ、ポンペイ、チューク、ヤップにおける現地調査を実施したことになり、資料からはうかがい知れない現地の現在の様子や日本統治時代を知る関係者への聞き取り、当時の遺跡や戦跡の視察など現場の空気を吸うことができた。こうした体験を通じて、より多角的な観点から、本研究を進めていくことができた。 日本平和学会冬季研究大会(自由論題部会3)における報告にさいしては、内海愛子先生より本研究全般に対するコメントをいただく機会を得た。さらには、質疑応答においてフロアより有益な質問を受けることができ、本研究の成果につながる知的な刺激を得た。これまでの近接研究領域における関心事は、本研究の趣旨や目的とは異なるため、この学会報告を通じて、本研究の論点の斬新さをアピールすることができたと思う。同時に、日本の委任統治という歴史的な事象の現在の国際平和構築に対する含意を具体的に整理し、精緻化していく必要性を認識した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
順調に予定していた現地調査を終えることができた。また、他の業務との日程調整ができたため、次年度の予算を前借りして追加の現地調査を実施することもできた。日本平和学会での報告を一里塚と位置づけ、研究の途中経過を報告してフィードバックを得ることによって、多忙ななかでも研究を推進していく動機づけとすることができた。昨年度は、旧南洋庁の本庁が置かれていたパラオを訪問することで、かつての日本の委任統治領だった場所に初めて足を踏み入れた。今年度は、旧南洋庁の支庁が置かれていた島々を巡ることで、それぞれの島が経験したことをミクロな視点で理解することに努め、日本の統治の実態や日本人に対する現地の人々の心象の違いを実感した。とりわけ、戦跡をめぐりながら、日本将兵の苦境だけでなく、巻き込まれてしまった現地の人々の苦難についても理解する機会となり、研究を推進するうえでのいっそうの動機づけとなった。さらには、現地における日系人との交流も深めることができ、当初はあまり意識していなかった、こうした血縁の紐帯を大切にしていく視点も得られた。このように、現場を訪れ、人々と交流することで、本研究の意義がいっそう強く実感できた。日本社会のなかで旧南洋群島のことが忘れ去られていくことを防ぐためにも、研究者だけではなく、国民一般に対しても本研究の意義や成果を伝えていく必要性を再確認する機会となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究の最終年度にあたる。そこで、今後の研究の推進方策としては、研究成果を取りまとめて発表していくことに重心を移す。まずは、日本平和学会冬季研究大会(自由論題部会3)にて「南洋群島における日本の委任統治と戦災と戦後責任」として報告した内容をベースに学術論文として仕上げて投稿する。さらには、国民一般に向けた啓蒙書を書く準備を進める。具体的には、新書レベルの書籍の発行および学生団体やマスコミと共催して公開シンポジウムを開催して、研究成果を対外的に発信していく。そのさいに研究協力者として関与している「和解学の創生」という別の研究との連携を推進し、本研究で得られた成果を、次の研究のなかに生かしていく道筋をつける。「和解学の創生」では、旧南洋群島だけでなく、朝鮮、台湾、満州といった旧大日本帝国の支配下に置かれた地域の人々との和解を考える機会を得ることができる。そのような広範囲の研究対象のなかに、本研究の成果を位置づけることで、比較の視点を得たり、共通パターンを浮き彫りにしたりすることができるだろう。日本社会が一般的により関心をもっている朝鮮、台湾、満州といった地域との関連性を主張することで、忘却されがちな旧南洋群島についての認識を深めることの重要性を喚起していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に他の業務との日程調整が可能になり、次年度に予定していた現地調査を今年度に実施するために、次年度の予算を前借りした。その申請時には、正確な支出額が未定であり、概算で請求した。精算後に残金となったものが次年度使用額である。この金額は、もともと次年度に使用する予定であったので、次年度分の助成金を合わせて、研究成果の公表に向けた取り組みに支出する。
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