国際連盟の委任統治領として日本が統治した南洋群島の委任統治の特徴を分析した。その特徴を、現代の平和構築における国連による暫定統治と比較することで、委任統治と暫定統治の共通点や相違点を分析した。両者は類似の異なる取り組みではあるが、現代の暫定統治が内包する課題は、委任統治においてもみられたことから、日本の委任統治の経験から導き出せる教訓を現代の国連暫定統治に生かすことが第一の研究目的であった。同時に、アジア・太平洋戦争において、南洋群島は激戦地となり、移民として南洋群島に渡った日本人、沖縄人、朝鮮人だけでなく、現地住民も戦争被害を受けた。ところが、日本国民の南洋群島における戦争被害者の記憶に南洋群島の原住民のことが含まれていることはほとんどない。また、当時の日本統治から戦争経験までの記憶が廃れつつあるなかで、本研究を通じて、戦争の記憶を伝承するという責任を果たすことも副次的な目的とした。委任統治であれ暫定統治であれ、統治する側の視点と統治される側の視点には、常に緊張が孕んでいる。統治する側が持ち込む外部の価値観、制度、生活様式、文化と受け入れを余儀なくされる現地社会の価値観、制度、生活様式、文化との受容と反発の関係が、委任統治と暫定統治の共通点として認識された。文明対野蛮という差別的な視点が委任統治をする日本側に存在していたことと同様の状況が国連による暫定統治にも見受けられた。他方で、国連による暫定統治の最終目標は、被統治地域が独立を果たすことを支援することにあり、大国の責任として期限を区切ることなく統治を継続させる委任統治とは、外部者の基本姿勢が大きく異なる。しかし、現地住民の自立という課題は、国連の側にノウハウがあるわけではなく実現は困難である。沖縄からの移民という存在を介して、南洋群島における日本の戦争責任をみることで、戦争の記憶を現代につなぎとめる視点がえられた。
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